格付けの勃興と衰亡

たかが格付け、されど格付け
格付け会社が飲んだ「毒薬」
利益相反」を生むビジネスへ突き進んだ背景
松田 千恵子
2011年11月29日(火)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20111124/224255/?P=1
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 歴史をひもとくと、格付けへの信頼は、1929年の金融恐慌と共に始まり、2008年の金融危機と共に去った、とも言える。

 米国で格付けが発生したのは1909年である。ジョン・ムーディーがアルファベットの記号を信用リスク分類のために鉄道会社の債券に付けたのがその始まりとされている。ただ、実際にはそれより以前から、債券の信用調査という分野は活発化していた。

 その昔は債券を発行する側もそれを買う側もお互いをよく熟知していたので、何も第三者に聞かなくても信用リスクの程度など十分に分かっていたのだが、経済活動の広がりに伴い知らない人や団体の信用リスクを取ることも増え、第三者の介在する余地が生じてきたからである。信用調査を専門にする団体が生まれるようになり、この「新規ビジネス」は経済拡大の波に乗って成長していった。

 後世につながる最も有名な会社は、1841年に設立されたルイス・タッパンのMercantile Agencyだろう。1859年にロバート・ダンに買収されDun&Companyになり、その後同社が1849年にジョン・ブラッドストリートが設立した信用調査会社と合併してDun&Bradstreetとなる。同社は現在も信用調査の最大手である。

 1860年にはヘンリー・プアーがH.V. and H.W. Poors and Sonを設立、その後The Poor Companyとなり、1941年には競合であったStandard Statistics Companyと合併してStandard&Poorsとなる。

格付けの需要を高めた1929年の大恐慌
 こうした信用調査会社が雨後の筍のように設立されていった背景には、経済が拡大して第三者による信用調査が必要になったことに加えて、当時の米国では特に鉄道業界の高成長が続き、広く投資家から資金を集める必要が高まっていたことが挙げられる。

 また、個人投資家が多く社債市場に参入するようになってきたため、信用情報に対する需要が増大したということもある。だが、信用調査情報をそのままの形で取り扱うのは難しい。従って、ムーディーが考案したアルファベットによるランク付けというのは、誰にでも手軽に信用リスクの程度を知らしめるものとしてはグッド・アイデアだったといえるだろう。

 だが、良いアイデアも市場から受け入れられなければ長くは続かない。格付けへの需要を決定的に高めたのは、1929年の大恐慌である。数多くの債券がデフォルト(債務不履行)に陥ったが、そのなかでも格付けが高い債券は比較的デフォルト率が低かったのである。「これは結構使える」――。当時の投資家はそう思ったのではないか。そこから格付けへの認知が広まり、活用が増えていくことになる。
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 おまけにこの頃からコピーという代物が発達し始めた。ケチな投資家が何をしたかは推して知るべし。格付け会社絶体絶命の危機である。何とか収入を得て生き延びる手立てはないものか――。こう考えるのは、ビジネスを行う者としては自然の成り行きだろう。
 このあたりから近時の金融危機における大失態につながる、様々な種子が格付けビジネスという土壌に蒔かれ始める。最大の転換は1970年代に訪れた。投資家から情報販売収入を得るだけではなく、発行体からも格付付与手数料を徴収するようになったのだ。
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