『硫黄島からの手紙』

硫黄島からの手紙 [Blu-ray]

硫黄島からの手紙 [Blu-ray]

 
それにしても日本人が作るべき映画が外国人に作られてしまう。
そして日本人がウジウジと躊躇して言い切れないせりふを言われてしまう。
なんて情けない国民なんだ。日本人は。
そんなにウヨクと思われるのが怖いのか。卑怯者め。
 

それにしても、イーストウッド監督のこの冷静な視点、当事者の一方でありながら、余計な感傷に浸る事無くあの戦争を描ききった態度には恐れ入る。彼はここ数年の日本映画が(北東アジア三国に遠慮して)どうしても言えなかった"あの一言"さえも、いとも簡単に言わせてしまう。
 
TITLE:超映画批評『硫黄島からの手紙』90点(100点満点中)
URL:http://movie.maeda-y.com/movie/00842.htm

硫黄島からの手紙』を見てきました。

前田先生は『父親たちの星条旗』を70点とし
硫黄島からの手紙』を90点とした。
http://movie.maeda-y.com/movie/00842.htm
米国でも『父親』より『手紙』が評価が高いらしく、
ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞の最優秀作品賞し、
クリントの最高傑作とまで評されている。。

しかし・・・
歴史オタとしては残念な点、気になる点が多々あり、イマイチであった。
(期待が高かった割にはという意味でだが)

まず、

・日本軍が少ししかいない!
 少なくとも画面には2万6千の大軍だということが感じられない。
・日本軍が皆ゲリラみたい!
 少量とはいえ、戦車・航空機・重砲を備えた近代軍隊なのに、
 なんだか野営地にキャンプしているだけに見える。
・要塞がただの洞窟にしか見えない!
 総延長18km。400人収容のホール。地下20メートルの司令部。
 という相当な規模の要塞が有機的に機能したために激闘になったのに
 それがまったく感じられない。逆に狭いトンネルの描写もない。

以上の結果、なんだかバラバラに右往左往している日本軍が
個人的散発的に戦闘しているかのような印象ばかり残る。
(最後はそうなったのかもしれないが)
日本軍を立派に描けという話ではなくて、
戦闘が組織的計画的に行われていることがよく分からない。
いままでの戦争映画と同水準なのが残念だった。

つぎに、

・日本軍(および日本)の「残虐さ」ばかり強調される。
 ・二宮は「こんな島アメリカにやっちまえ」と言ってリンチを受ける。
 (これは本当にあってもおかしくないかな)
 ・二宮は撤退してきたことで激怒され首を切られそうになる。
 ・渡辺は最後に自分の首を切るように命ずる。
 (なかったとは言えないが、やたら首切りを強調するのはアメリカ人的に
  異様な習俗を強調しているように見える。特に渡辺=栗林の最後は不明
  なためこのシーンは完全な創作。普通ピストルで自決するだろうに。
  もっとも沖縄守備隊の牛島中将はハラキリしているが。。)
 ・やたらと自殺する。
 (これも必ずしも嘘ではないが、上記同様過度に強調される。
  やはりアメリカ人には異様にみえるからだろう。
  ほとんどの兵士は戦闘で死んだのに、こういうシーンばかりだと
  日本軍は自殺or自殺攻撃(バンザイアタック)でレミングみたいに
  死んでいったように印象づけられてしまう。)
 ・自殺を拒否して殺されそうになる。投降しようとして殺される。
  後者はあったろうけど、前者はどうなんだ?
  これも日本兵はイヤイヤ闘っていたという印象を受ける。
 ・日本兵が衛生兵を撃てとブリーフィングしている。(国際法違反)
  (これも聞いたことが無いなあ。あるかもしれないけど。)
・兵士がみんな厭戦的。
厭戦気分もあっただろうが、当時は未だ本土空襲本格化前で一般市民も
 抗戦気分はまだ高かった。イヤイヤ闘っている日本軍ばかりというのは
 史実に反する。)
憲兵隊が犬を殺す。
(内地で憲兵隊が威張っていたのは事実だが、単なる嫌がらせで犬を殺す
 なんて話きいたことがない。もちろんこのシーンも創作。2時間しかない
 映画にわざわざこんなシーンを入れた意図を勘ぐってしまう。
 そのせいで硫黄島に送られた元憲兵は「僕は本当はアメリカを知らない」
 とつぶやいて投降してゆく。
 要するにファシストの洗脳で一般国民は闘いたくもないアメリカとの戦争に
 駆り出されたと言いたい?
憲兵隊がパン屋からいろいろ徴発する。
 金属徴発はあったかも知れないが、
 小麦粉や砂糖を徴発するなんて聞いたことがない。
 そもそもそういうのは配給制なんだからあり得ない。
 わるーいファシスト=軍国日本が市民を略奪した、という印象を与える。
 するとその政府を倒したアメリカ軍は正義の味方といいたい?
・日本軍で理性的なのはアメリカ滞在組の将校だけ(渡辺と伊原)
 アメリカを知っている理性人とアメリカを知らない野蛮な日本人、
 という図式になっているよね。悪気はないのかも知れないが。

あと、どうでもいいことだが、

日本兵が「ジープで送りましょう」と言う。鹵獲品?
日本兵が「ライフルしかありません」と言う。そこは小銃だろ。

すごい金かけて時代考証しているはずなのに。
出演している日本人も気がつかないのか??



いずれにしても総体として、
悪のファシスト国家日本が善良な市民を無理矢理戦争に駆り出した。
という図式になっているのが違和感がある。

今から考えて当時の日本をどう評価するかはいろいろ意見もあろうが、、
当時はほとんどの人は反戦でも厭戦でも無かったし、戦争を支持していた。
「本当は反戦だったのにイヤイヤ駆り出された」というのは
戦後つくられた神話だ。(アメリカにとって都合のいい神話)

クリントは単に勇ましい戦争を忌避したかっただけなのかも知れないが、
結果的にステレオタイプの描写になっているのが残念であった。

以上