ディーゼル車の値段をドイツ本社に打診したら、「あり得ない」って電話を切られました(実話)
第98回:メルセデス・ベンツ E350ブルーテック【マーケティング担当者編】
フェルディナント・ヤマグチ
2011年7月7日(木)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20110706/221323/?P=1
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豊:AにもSにも載っています。メルセデスに限らず、ドイツでは販売構成比の半分以上がディーゼルエンジンです。ドイツに行ってレンタカーを借りようとすると、ディーゼルじゃないモデルが逆にないぐらいなんです。タクシーなんかはほぼ100%ディーゼルです。
F:ドイツだけではなく、ヨーロッパ全体がそんな感じですか。
豊:フランスとかイタリアはもっとディーゼル比率が高いです。乗用車全体の7割はディーゼルです。
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伊:燃料を完全燃焼させようとすると……完全燃焼に近づけば近づくほど、NOxが増える傾向にあるんです。要は、物が燃えるとススが出ます。でもそのススというのは完全燃焼に近づけば近づくほど減っていきますと。ところが今度は完全燃焼することによって発生するのがNOxといわれる窒素酸化物……ということなんです。
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豊:日本ではディーゼルの方が安いです。そこは我々の価格戦略になるんですが、ヨーロッパではガソリンモデルよりもディーゼルの方がはるかに高いんです。
伊:向こうでは普通のCDIで、ガソリン車より10%くらい高いですね。(日本で売っているのと同じ)ブルーテックになるともっと高い。
豊:ブルーテックで投入している技術を考えると、ガソリン車と同じ値段にすることなど基本的に不可能なんです。ただ、日本ではディーゼル乗用車の知名度が低いことがあり、我々としてもどうしてもディーゼルを普及させたいという思いがあります。
F:じゃあ、メルセデス日本としてはガソリンよりもディーゼルの方が儲けが少ない?
豊:もう全然少ないです。正直な話、ディーゼルだけは特別な価格設定をしています。
F:お客側としては、ベンツを買うならディーゼルの方が断然お得ということになりますか。
豊:もう絶対にお得です。100%お得です。ドイツの本社はこの価格設定に怒っています(笑)。
F:こんなに安くしやがって、と(笑)。
豊:というか、電話を切られました。日本では戦略的にこの値段で売りたいんだ、と最初に電話で伝えたのですが、本社は「あり得ない」って怒ってしまい、ガチャ切りされました(苦笑)。
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伊:メルセデス本社のパワートレイン戦略では、ディーゼルが一番大事な技術なんです。つまり、最新の技術=ディーゼルエンジンの技術なんですよ。今後の技術開発も、ディーゼルエンジンが中心になってくるはずです。
 となると、今日本でちゃんとディーゼル売っておかないと、将来的に最先端のパワートレインを日本に入れられなくなってしまう可能性がある。要するにいろいろな基本的なディーゼルの技術が、日本にもう紹介されなくなってしまう。
F:うーん、最先端のエンジンが日本に来なくなる。それはヤバいですね。
豊:そういう背景ももちろんあります。ただ日本は技術大国なので、顧客の目が肥えている。技術的なアクセプタンスを試すマーケットとして、ドイツの本社側は常に注目しているんです。
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F:そこですよね。本社側は日本人がディーゼルに対して抱く“負”のイメージを理解しているのですか。
豊:もちろんしています。
F:しかし何でこんなに嫌われるようになっちゃったんですかね。
豊:やはり基本的にはトラックとかダンプのイメージを皆さんお持ちで……。
伊:壊滅的になったのは、やっぱり石原さんのコレ(ペットボトルを振る仕草で)ですね。あれは効いた。あの後ほとんどのディーゼル乗用車は、当時の技術では、採算を考えると、とてもじゃないけれど通すことはできないほどの規制を掛けられちゃったので。
F:石原閣下……。
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豊:はい。トルクがものすごくあります。それはガソリンの5リッタークラスのクルマに匹敵するパワー感です。エコノミーというのは先ほどたっぷりお話しした通り。さらに減税・補助金のメリットもありますし、燃費のメリットもあります。それとクリーンというのは、先ほどはあまり言いませんでしたけど、規制値をクリアするというレベルでは実はないんです。数値が規制値の10分の1というのはちょっと大げさなんですけれども、もう軽く数分の1。NOxなんかはほぼゼロに近い数字です。
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 我が国では「世界一キレイなディーゼル」が、もしかしたら「世界一安く買える」かも知れないのです。満タンで1000キロ。しかも燃料は格安の軽油でOK。減税に補助金を上手く組み合わせれば、80万円がお得になるとも言います。うーん、これはお買い得ですぜ奥さん。
 とはいえ標準車両本体価格 798万円。この値段を安いと思うか高いと思うかは読者諸兄の懐事情に因るわけですが、編集I氏は取材の帰り道で、「なんだ、そんなに安いんだ。それなら夏のボーナスが出たら買おうかな」とポツリ呟いておられました。日経BPって給料良いんスね。ご馳走様です。
 (編集I:また、そんなご冗談を。出版不況でボーナスが出ないかもしれないっていう噂もあったらしいのに。あ、出たか。だけど、これも「もう軽く数分の1」になっているかも…。涙)
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(企画協力:藤野太一)