秦氏と新羅王伝説

     
非常に面白い。
だいたい日本人は起源に無頓着というか、スッキリしない説明で納得していることに納得できない。
で、こういうモヤモヤを吹き飛ばす本に出会えるととても嬉しくなる。
すばらしい知的満足を味わえた。
感謝。
  
古代中国の武器について調べると、意外なことにみんな西域ルーツだと気付く。
初期の主兵器は戦車だが、これ自体メソポタミア起源だ。
戦車を導入したときに短弓や戈もセットで渡来したと思われる。
で、武器と金属技術は個別のものとは考えにくい。
つまり支那の金属文明=武器文明そのものがメソポタミア由来ということ。
じゃあ漢字はどうなんだよと気になるが『文字の歴史』を書いたSteven Roger Fischerさんは漢字も起源はエジプトだって断言していたね(^_^)v
漏れは関岡史観でいう文明一元発生説(アンチ四大文明説)なので得心ゆくところだけど。
  
初期支那の土器文化はコーカサスあたりと近縁だ。
支那では中東と違い青銅器・鉄器文明が前史もなく急激に展開した。
先端技術の伝播ルートを抑えた最西端の秦人が支那本土(当時の支那は現在の1/3くらいの領域ね)を制覇したのだ。
中共始皇帝陵の発掘を禁止しているのも現在の北方由来の漢人アイデンティティが崩壊するモノが出てくる懼れがあるからなんですね、わかります。
   
というわけで、言語学者の川崎真治という方がミャオ族神話の蚩尤の語源はウル・シュメール語で鋳物師を意味するシムグ/シウ/シであると指摘している。
で、これが扶余・高句麗神話の朱蒙であり、伽耶神話の首露王であり、日本神話のスサノオとイコールなのだと。
そして武器の神=文明の神=神話上の国家建設者なんだね。
で、蚩尤はメソポタミア由来の神らしく牛頭なのだ。
なので牛頭大王=スサノオになる。
蚩尤は帝鴻とバケモノ同士で闘って負けたうらみで疫病を流行らせた。
これが牛頭大王=疫病のカミサマ=祇園祭の理屈なんだ。
つうか中華民族の祖なんていわれる黄帝(公孫軒轅)ももとは黄色いミミズに足が6本羽が4枚ついて頭がない(から目も口もない)バケモノなんだよな。
  
ただ、皆神山さんが百済人=穢貊人含む秦族と簡単に言ってしまうところはちょっと留保をつけたい。
皆神山さんは百も承知だろうけれど、半島国家では支配層と庶民の民族は同じではない。
高句麗百済伽耶支配層はジュルチン人の一派であるが、原住民である韓・穢・貊との関係は明白ではない。
そして始祖伝説の近似で被支配民族の出自を同定できるのか疑問だ。
いちばんわからないのは新羅だ。なに新羅人って?
素直に考えれば秦からの亡命者がつくった国なんじゃないかな。
だいたい『魏志』でほとんど原始人扱いされている穢人・貊人が秦氏の出自とは考えにくい。
半島が文明化されたのは楽浪郡の影響なのだから、単に楽浪郡消滅後に穢貊を支配し新羅支配層になった旧秦人が秦氏であるとみていいのではないか。
あえてハタ/パタという種族名に秦の字を充てたのは支配層は漢字を読めたからだろう。
スサノオ新羅と関係深いのは間違いないが、ことさら扶余神話をもちださずとも蚩尤神話が東アジアの金属文明とセットで伝播しただけとも言える。
むしろ日本でなぜかスサノオが追放されてアマテラスが主神になった経緯が特異といえる。
そしてアマテラス神話の南方的要素は半島・大陸にないものだ。
これが非常にわからない。
だいたい秦氏スサノオ神話を持ち込んだというより、スサノオ神話に自らの始祖神話と同質のものを見いだしたから採用したのだろう。
日本でも紀元前から冶金が行われていたのは確実なんだから7世紀の新羅の半島征服後の難民を起源にするのはムリがある。
ようするに大量難民でリファインされただけなのだ。
それ以前の神話の伝播は不明だ。
結局、お天道様と食べ物への信仰というのが先ずあって、それがアマテラスであり、ウガノミタマであり、それを後から秦氏が整備したのではないか。
     

 蚩尤(しゆう)
   
 中国古伝説時代の黄帝のころの諸侯。「人身・牛蹄・四目・六手」とも「亀足・蛇身」ともいわれる、鬼神。妖怪軍を率いて黄帝と争う。大霧をおこして黄帝を迷わすが、黄帝は指南車を使いこれを打ちまかし、蚩尤は戦に敗れる。兵乱の前兆を示す星を「蚩尤旗」という。後に戦の神として祭られることもあった。
  
(藤山)
  
 中国の苗族の英雄神であり、戦神でる。ただし、それは遥か古い時代の話であり、苗(ミャオ)族が漢民族に吸収された後には、ただの怪物へと貶められてしまっている。彼の姿は、元は青い体色の、一本足の龍であった。だが、苗族が漢民族に吸収された際、それに抵抗した苗族反乱軍が崇拝していたのが蚩尤であったため、反乱軍が敗北すると同時に彼も龍という地位を奪われ、牛の怪物とされ、そして次第に人々から忘れ去られて行くのである。
 四肢に剣、弓矢などを持ち鎧で武装した牛の姿。それが、黄帝に敗北した彼に新しく与えられた姿である。彼の元の姿は、「山海経」に残されている。
  
(ARES)
http://www.pandaemonium.net/menu/devil/siyuu.html

蚩尤
 
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(にゃんこ注:牛頭の怪物が剣と戈を手に弓と矛を足?にもっているように見えます、鎧は着ているのか?つうか歩けないジャン)
 
蚩尤。漢代の石刻画
蚩尤(しゆう Chihyu)は中国神話に登場する神である。路史によると羌が姓とされる。天界の帝王である黄帝大戦争をした。獣身で銅の頭に鉄の額を持ち、また四目六臂で人の身体に牛の頭と蹄を持つとか、頭に角があるなどといわれる。
   
砂や石や鉄を喰らい、超能力を持ち、性格は勇敢で忍耐強く、黄帝の座を奪うという野望を持っていた。同じ姿をした兄弟が80人くらいいたという。戦争にあっては、神農氏の時、乱を起こし、兄弟の他に無数の魑魅魍魎を味方にし、風、雨、煙、霧などを巻き起こして黄帝と涿鹿の野に戦った(涿鹿の戦い)。濃霧を起こして敵を苦しめたが、黄帝は指南車を使って方位を示し、遂にこれを捕え殺したといわれている。
  
この時、他に蚩尤に味方したのは勇敢で戦の上手い九黎族(ミャオ族の祖先といわれる。)、巨体の夸父族だった。最後に捕らえられた蚩尤は、諸悪の根源として殺されたが、このとき逃げられるのを恐れて、手枷と足枷を外さず、息絶えてからようやく外された。身体から滴り落ちた鮮血で赤く染まった枷は、その後「楓(フウ)」となり、毎年秋になると赤く染まるのは、蚩尤の血に染められた恨みが宿っているからだという。赤旗を「蚩尤旗」と言い、劉邦がこれを軍旗に採用したとされる。
   
戦いは終わり、九黎族は逃れて三苗族となった。黄帝は敵討ちを心配して三苗を皆殺しにしたが、この南方の民を根絶やしにできず、その後、苗族は歴代の王を執拗に悩ます手強い敵となった。
  
史記』「封禅書」では蚩尤は「兵主神」に相当するとされ、戦の神と考えられている。また戦争で必要となる戦斧、楯、弓矢等、全ての優れた武器(五兵)を発明したという。蚩尤が反乱を起こしたことで、これ以降は法を定めて反乱を抑えなければいけなくなったとも言う。

五兵とは・・・諸説あるようですが、いちおう上記本にしたがうと、

剣(けん:切るというより打っ叩くものだったらしく実践的ではなかったらし。そのせいかだんだん儀礼的なものになっちゃった)

矛(ほこ:要するにヤリのことですね。”武器”としてはもっとも出自が古いんでしょう、戦国以降の集団戦闘で再評価されたらし)

戈(か:つまり引っかけるカマ。戦車戦闘ですれ違いざまに相手の乗員にグサ!)

戟(げき:ほこ+かの両用武器。戦車戦が廃れると中途半端になってしまい、廃れた)

鎧(よろい:鉄製の立派な鎧の出現は戦国時代以降。蚩尤が纏ったのは皮の鎧でしょうね)

  
追記)
ところで、蚩尤より後の時代、支那では弓は弩(ど、いしゆみ、クロスボウ)が主流となるのだが、日本では流行らなかった。
これが疑問だったのだが、武器について調べていたら理由が分かった。
つまり武器としては弩より長弓のほうが距離・威力・連射性などで優れているのだ。
ただ長弓は熟練に時間がかかりプロの軍人しか扱えない。
支那・朝鮮では庶民を強制動員して戦闘したからバカでもチョンでも扱える弩が普及したが、日本では戦闘のプロ化が進んだので長弓が選ばれたということらしい。
そう考えると、元寇で弩や短弓を装備した促成兵士が練達の鎌倉武士に勝てなかった理由もスッキリする。
なるほどねえ。
でもこの「バカでもチョンでも使える武器」より「武器に熟練して使いこなす」指向が大東亜戦争では桎梏となったわけですな。
禍福は糾える縄のごとし・・・(^_^)
         
追記)

神につかえた女性たち―天照大神は夫余神なり

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日本民族の総氏神-兵主―日本古代史の七つの謎 (新風舎文庫)

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つうか、なぜ絶版?!
中古23000円?!
国会図書館行くしかないじゃん・・・
ていうか、2004年、2005年にこんな本が出ていたことすら気がつかなかったよ
だいたい「皆神山すさ」なんてどう考えても仮名だし、古代史学会を追放されかねないから匿名にしたのか?
つうか、こういう論が都合悪いと考える「ウヨク」とかいるのかいな?
なぜ黙殺される?

1949年1月10日長野県松代町生まれ。
学園紛争のさなか、新潟大学人文学部経済学科中退。
著作:
研究ノート『日本神話の源流ー扶余・朝鮮・日本』(1984年 大阪紀伊国屋書店
日本民族の総氏神ー兵主』(2004年 新風舎
『神につかえた女性たち』(2005年 碧天社)