『ポピュラーメカニクス』ウェブ版 ――兵頭 二十八
『ポピュラーメカニクス』ウェブ版 ――兵頭 二十八
by 編集部 at 4月8日(金)09時06分
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※『ポピュラーメカニクス』のウェブ版にわかりやすい解説が出ていたので、抄訳したいと思います。
原文は、Andrew Karam 記者による2011-4-4記事「What Went Wrong: Fukushima Nuclear Disaster」です。この記事を書いている Dr. Andrew Karam は、放射能安全対策のプロである。彼は1980年代に米海軍で、原潜のエンジンの緊急事態に際してどのように乗組員を放射能から守るかを考えるセクションに奉職していらい、この分野での仕事を30年間続けている権威者だ。※ちなみに、反原発主義者ではない。
3-11の東北地震は、過去に全世界で記録された5大地震の1つにランキングされるほどのものであった。
福島第一原発には6基のリアクターがあり、うち3基が燃料にダメージを受けた。
沸騰水型炉で発生した蒸気は、まず水滴が除去されてからタービンに当てられる。水滴があると、タービン・ブレードは破壊されてしまうのだ。
この高熱水蒸気ガスのエネルギーは、箒の柄ぐらいなら瞬時にバラバラにするくらいあり、それがタービン・ブレードを突き動かしている。米国最初のSCRAM装置は、中性子吸収棒をロープで吊るしてあって、炉が暴走しそうになったら、男が斧でそのロープを切る、というものであった。
炉がスクラム停止して連鎖反応を止め、つまり臨界ではなくなっても、核燃料は、自己崩壊熱を出し続ける。そして放射性の核燃料は、放射性アイソトープに、自己変化して行く。もし崩壊熱が適切に除去されないと、温度はどんどん高まってしまい、しまいには燃料棒が熔け始めてしまう。
このメルトダウンを防ぐため、〔第三世代より以前の原発は、〕シャットダウンしたあとでも、冷却用ポンプだけは駆動を続けていなければならない。
そのポンプの主電源は、外部電源、すなわち電力会社からの送電網だのみである。
加えて、最低でも2基のディーゼル自家発電機が置かれる。これは外部電力が途絶えると自動的に起動する。最重要課題は、炉心を冷却する水の循環を決して止めないことである。
バリアーは3つある。
ひとつはfuel claddingで、これは燃料棒を被覆しているジルコニウム合金の薄膜である。
次が、鋼鉄製の原子炉圧力容器(reactor vessel)で、次が、強化コンクリート製の原子炉格納容器(containment structure)である。圧力容器内のガス圧が高まりすぎたときのために、圧力逃がし弁がついている。それを開けると、放射能を帯びた蒸気や水が噴き出すわけだが、それらは「holding tanks」に回収される。時には、原子炉格納容器内に放出させることもある。
福島第一を含む多くの原発では、この原子炉格納容器の外側に、さらにもう一重、原子炉建屋を設けている。
この原子炉建屋内に、使用済み燃料を貯蔵するためのプールがある。福島で地震が起きたときに、制御棒は正しく挿入され、炉心の核分裂反応はスクラム停止した。
外部電源が停電したので、ディーゼル発電機が起動した。
しかし1時間たたぬうちに、想定外の津波が来て、ディーゼル発電機が動かせなくなってしまった。かくして、冷却水の循環が止まった炉心の温度は、燃料棒の自己崩壊熱によってどんどん上がって行った。圧力容器内の水蒸気の圧力が高まった。
テプコによれば、3-12に原子炉圧力容器の安全弁が自動的に開いた。そして原子炉格納容器内に放射能汚染された水蒸気が満ちたわけだが、こんどは、その原子炉格納容器内の内圧が、設計で想定していた内圧力上限の2倍になってしまったという。
※圧力容器はもともと貫通孔だらけなので、〈内圧が高まりすぎてスチールの繭が吹っ飛ぶ〉という事態は、最初からあり得ないのか。
原子炉格納容器にも、圧力逃がし弁がある。ただしこちらのベントの作動は自動ではなく、オペレーターが開けるかどうかを判断して決心しなければならない。というのは、そのバルブを開ければ、放射能で汚染されたガスが、建屋をスルーして大気中にまで放出されることになり、住民被害を考えねばならなくなるからだ。そのガスの中には 放射性の「沃素131」や「cesium-137」が含まれている。
それから数日以内に、炉心の核燃料棒が損傷を受けていることはもはや明かとなった。
問題は、それが圧力容器の底を融かしてしまうくらいに高温化するかどうかである。いまのところは、燃料棒の全面融解にまでは、炉心温度は達していないようだ。別の困った問題は、水が高レベルの放射線にさらされたり、あるいは、熱したジルコニウムに水が接触すれば、水素ガスが発生してしまうことである。福島第一原発の圧力容器内では、この現象が起きている。
こうして発生した水素ガスが、ベント弁を通って原子炉格納容器と建屋内に充満して、何度か爆発した。そのため、1号基と2号基の格納容器には裂孔が開くかもしれぬという危険にさらされており、また、おそらく3号基の格納容器には既にヒビが生じてしまっている。
※ところでこの夏以降の大問題だが、「発電」と「送電」の事業分離は、うまくはいくまい。「送電」インフラのメンテナンス義務も、新規参入の「発電」事業者に一緒に負わせぬかぎりは、必ず失敗すると思う。冗長系を構築しておかないと万一のときに弱い、というのが今次の大教訓じゃないか。「スマート」じゃダメなのさ。だから、もし、中部電力や関西電力が東電管区内で(工場向け限定の)商売をしたいなら、東電とは別の「送電」インフラを、海底および地下(それはJR在来線など鉄道の地下が適当かもしれない)に構築すべきである。その「第二送電系」のインフラは、数社共同出資の子会社にやらせてもいいだろう。給電系までもデュアル化することで、真の防災になり、真の競争にもなるはずだ。もちろん、一般家庭向きの売電商売をさせてはならぬ。あくまで「工場向け」に限定しておくことだ。あともう一言。『失敗の本質』とかいう駄本はいいかげん捨てなよ。オレの読者なら、あの本が何も明らかにしなかったことが分かるはずさ。