イタリア原発ルポ:廃炉4基7280億円 部品刻み水槽へ
2011年7月16日
http://mainichi.jp/select/today/news/20110716k0000m030163000c.html?inb=tw
 【カオルソ(イタリア北部)藤原章生】イタリアは6月の国民投票脱原発を決めた。政府は今、過去に稼働した原発(4基)の2020年前後の廃炉を目指し撤去に本腰を入れている。北部の町カオルソで進む原発解体作業を見た。

 「この規模では世界唯一の脱放射能槽です」。線量計を胸につけ防護服でカオルソ原発のタービン建屋に入ると、イタリア原発管理公社の同原発所長、エミリオ・マッチさん(57)が、全自動の長さ10メートルほどの大きな水槽を示した。

 この原発は福島第1と同じ型の原発。脱放射能槽では、総量で5000トンにおよぶ原子炉部品、機材を一つ一つ切り刻んでは弱酸性液の槽に浸し、放射性物質を取り除く。従来は砂を吹きつけ除染したが、効率を上げるため公社と民間のアンサルド社が考案した。

 地上7階、高さ46メートル、普段は人が入らない原子炉の最上階に上ると、燃料を取りだした炉は蓋(ふた)をされていたが、使用済み核燃料のプールには水がはってあった。微量だが放射性物質が残っている。

 カオルソ原発は87万キロワットというイタリア最大の原子炉1基を持ち、81年に操業を始め、86年に燃料交換のために一時停止後、一度も動いていない。前回の国民投票(87年)を受け90年の政令で国内全原発の無期限停止が決まったためだ。

 その後、運営母体の電力公社が99年に民営化されたため、「停止や廃炉は損益に左右されない管理が必要」と、政府は原発管理公社(社員900人)を発足させた。「いずれ原子力の技術や知識は落ちる。発足は、最終的な廃棄物管理まで50年以上は技術を保つための策でもあった」とマッチさんは話す。

 09年に始まった解体はタービン建屋だけ。タービン建屋より放射能汚染のひどい原子炉の解体には7〜10年を要し、廃炉は早くとも2020年前後になる。

 停止決定の90年から約20年。さまざまな省庁、自治体が絡んだ「官僚主義」が遅れの一因だが、政府関係者は匿名を条件に「6月の国民投票脱原発が確定するまでは再稼働もあると、政府が原子炉を温存したのが大きい」と語る。

 原発管理公社最高経営責任者のジュゼッペ・ヌッチさん(56)によると、すでにカオルソを含め総能力142万キロワットの4原発の燃料の98%をフランスの再処理施設へ輸送した。2%(15トン)はトリノ原発に残っている。

 これらの処理など廃炉の最終的費用は約65億ユーロ(7280億円)。イタリア人が「捨てた」原発はかなり高くついた。ただし、公社は放射性物質除去や廃炉の技術を生かし、これまでもロシアの原子力潜水艦解体など海外で利益を上げている。原子力技術の使い道がなくなるわけではない。