貧困ビジネスは意外に親切

以前も書いたけれど、このビジネスは言われているほどダークなのか疑問だ。
家賃5万3千円、水光熱費1万5千円、弁当3食1000円なら妥当じゃないか。
仮に暴力団が経営していたとしても合法だろう。
問題は非就労の固定化だが、それは別の問題だと思う。
 
追記)
13万円の保護費から上記合計10万3千円をひくと2万7千円。
1日900円のお小遣いだけど、ギリギリ再就職活動はできるレベルと思う。
 

WEDGE REPORT
貧困ビジネスしか頼るものがない生活保護受給者の嘆き
2011年09月26日(Mon) 
WEDGE Infinity 編集部
(略)
 私がNPOの関係者に声をかけられたのは、横浜市内の駅前でベンチに座っていたときでした。「住むところがなくて困ってませんか?」。30代くらいの若い男でした。「立派ないい施設がありますよ」って。

 当時の私は仕事を失った上に住むところもなく、これからの生活をどうしようかと途方に暮れていたときでした。新たに仕事を見つけようにも、もう若くはありません。そこで、「怪しい話だな」と思いつつも、若い男について行くことにしました。車に乗せられ連れて行かれたところが、いま住んでいる建物だったのです。

 ここに部屋を割り当てられると、すぐに住民票を提出して住所登録を済ませました。そのままNPOのスタッフに急かされて生活保護の申請の窓口に行きました。部屋の賃貸契約書など必要な書類はすべてNPOが用意してくれます。窓口ではスタッフが同席して、担当者からの質問に代わって答えてくれたので、申請手続きはいたってスムーズに終わりました。

 生活保護の申請が認められると、受給者証が発行されますが、これはNPOに預けることになっています。預けるというと、響きがいいですが、実際には取り上げられるようなものです。これを管理することで、NPOは確実に保護費から集金をできるしくみになっているのです。

 詳しく説明しましょう。保護費の支給は毎月上旬にやってきます。この日は、役所の玄関の前にNPOのスタッフが待っていて、そのときだけ私たちに受給者証を返してくれます。それを受け取り、生活保護の窓口の担当者に示すと、封筒に入った保護費を手渡しで受け取ることができるのです。私が受け取る保護費は13万円あまりになりますが、このお金を役所の玄関で待ち構えているNPOのスタッフに封筒ごと渡さなくてはいけません。もちろん受給者証も再び取り上げられます。NPOはこの保護費から家賃や水道光熱費、弁当代などを差っ引いてから、残りの金額をそれぞれの住人に返すのです。NPOにとって、受給者証さえ管理していれば、取りっぱぐれることはないということになります。

 家賃は5万3千円あまりします。水道光熱費代は、いくら水道や電気を使おうが関係なく一律1万5千円です。きっと各部屋にメーターを取り付けるための設備投資が惜しいのでしょう。だから、「どうせ同じ料金を取られるならば」と、エアコンなんて使いっ放しにしています。食事は、NPOに頼むと1日3食分の弁当が出てきます。でも、ご飯に簡単なおかずが付くだけですよ。私は「自分でなんとかするから必要ない」と断っています。だって弁当代だけで月に3万5千円も取られますから。

 なかにはカセットコンロを持ち込んで部屋で料理をする人もいますが、カセットコンロの火が原因でこれまでに2度、ぼや騒ぎが起きました。消防車も出動して、近所にも迷惑をかけたようです。

 NPOに差っ引かれる金額は全部あわせると11万円を超える人もいます。手元にはほとんど残らないから、貯金なんてできない。いつまで経っても経済的に自立できない。NPO側の取り分は多すぎると思います。でも、どうしようもないのです。不満だからと言って、ここを出るわけにもいきません。出て行って住所がなくなると、生活保護を受け取ることもできなくなりますから。それに、ここでは最低限の暮らしは保障されています。「もし、つまづいたらどうしよう」とそんなことを思うと、ためらってしまいますよ。

 なかには、NPOに保護費の大半を持っていかれるのを嫌がって、支給日に窓口で保護費を受け取ると、札束の代わりに新聞紙を封筒に入れてスタッフに渡し、そのすきに役所の玄関をすり抜けて逃げ出す人や、裏口から逃げ出す人もいました。そういう人たちは、しばらくは行方知れずになってしまうのですが、結局、またこの建物に戻ってくるんです。行くところがないのは皆、一緒ですからね。

 この建物に住むのは90世帯ほど。夫婦で暮らしている人もいます。30代くらいの若い人も10人ぐらいいるでしょうか。どの人も生活保護を受け取っています。燃料代を節約するためでしょう、2階の大風呂以外は使用禁止です。ホテルだったために、各部屋に風呂があるにもかかわらずですよ。大風呂の隣には、かつて食堂だった広い部屋があるのですが、そのなかはベニヤ板で仕切られ、住人が何人も押し込められています。ほとんどの住人は、安い酒を買ってきて酒盛りをするか、テレビを見るかして過ごしています。

 NPOはこうした生活保護の受給者を集めた施設を、神奈川県内にさらに数か所と、千葉県や福島県などにも持っているそうです。経営の悪化で倒産したホテルや旅館の建物をそのまま利用したところが多いようです。なかでも福島県内の施設は、他の施設で酒を飲んで騒ぐなどのトラブルを起こした人が入居させられるところで、私たちは「流刑地」と呼んでいます。全体では数百人の生活保護受給者を囲い込んでいるのではないでしょうか。

 NPOのスタッフに言われて、路上生活者のスカウトを手伝ったことがあります。夜の横浜市内の公園でした。寝転がったり、独りでぽつんとしたりしている人たちに「住むところはありますか?」って声をかけるんです。結構、たくさんいますよ。住むところに困っている人たちは。私も何人か連れて来るのに成功したことがあります。

 あるとき、NPOのスタッフが「神奈川県内よりも東京のほうがスカウトの効率がいいはずだ」と言い出して、都内の盛り場のそばの公園までスカウトに行ったんです。確かに路上生活者はたくさんいましたね。でも、声をかけていると、そこの公園は別のグループの縄張りだったみたいで、「誰に断ってそんなことをしているんだ」と怒鳴り込まれてしまいました。どうやら都内は、路上生活者の囲い込みが盛んで、どの公園はどこのグループが声をかけると厳しく線引きをしているようです。

 こんな生活をいつまでも続けていいものか、迷いはあります。でも、ハローワークに行ってもいい仕事なんて見つかりませんし、だいたい若くないと面接すらしてくれません。

 NPOのやり方は巧妙だと思います。保護費のほとんどを取られてしまいますから、ここを出てどこかに転居するような余裕は出てきません。こういうやり方は頭にも来ますが、ここでの生活はこれでなかなか居心地が良いのも事実です。それに、NPOも私たちを上手に扱うというか、親切で声を荒げるようなことはありません。

 以前にしていた仕事は、働いても働いても生活が安定しませんでしたが、それに比べるといまは楽です。このままずっと居ついてしまうしかないのでしょう。他の住人たちも同じだと思います。私たちには、ここより他に頼るところなどないのです。