【経済教室】民法、初の抜本改正へ

もしかしたらグローバリズムの開国攻撃なのかもしれない。
でも、漏れはこういう日本語の壁に隠れた鎖国業界は改革されるべきだと思う。
だいたい民法が判りにくくてどうすんだよwww
義務教育受けた庶民が普通に解釈できるのがあるべき姿だ。
不必要に難しく語るってのは馬鹿の証拠。

経済教室
民法、初の抜本改正へ 取引国際化へ対応急務
太田穰 弁護士
透明性高め、準拠法に 外国法適用なら高コスト
(日経、11年07月30日)

<ポイント>
○制定100年超、条文難しく判例や学説で解釈
○国際取引のトラブル対処、民法敬遠の恐れ
○欧州や中韓が法整備、国際基準争いが活発

 政府の法制審議会の民法(債権関係)部会で、民法(債権法)改正が議論されている。債権法は基本的には契約に関するルールで、消費者同士の取引から企業間の取引まで幅広く適用される経済活動の基盤である。民法改正は市民生活や企業の経済活動にとって非常に重要な意義がある。
 
 民法改正は2009年10月、千葉景子法相(当時)が法制審議会に諮問した。民法は1896年(明治29年)の制定以来、100年以上も実質的な見直しがされていない。初の抜本改正に向け、諮問では「国民一般に分かりやすいものとする」と「社会・経済の変化への対応」という2つの視点を示した。ルールの内容が不明確であることや、現代の取引に適合しない規定があることを踏まえると、これらの視点からの見直しが必要であることは間違いない。
 
 民法改正の影響は、単に国内取引だけにとどまらない。会社法金融商品取引法、倒産法などは属地的で、日本国内の取引や企業に適用される。一方、民法は当事者が合意したり、外国の裁判所・仲裁機関が判断の基準となる準拠法として選択したりすることで、日本という国を越えて適用される国際的な性質を持つ点に特徴がある。
 
 中長期的に見ると、民法改正が日本企業の国際ビジネスにおけるインフラ強化にとって非常に意義のあることがもっと強調されてよいと思われる。とくに海外展開が生き残りをかけた必須の条件となっている中小企業にとっては、少なからぬ経済的なインパクトを与える。
 
 日本企業が海外向けに製品を販売したとしよう。「製品に欠陥がある」とクレームを受けた場合の処理方法、損害賠償の範囲、契約違反の場合の契約解除の要件や効果など、契約書の規定だけでは対処しきれないことが多いのが現実である。これまでも国際商業会議所が作成したインコタームズ(定型取引標準)が商慣行上援用されることが少なくなかったが、これも当事者間の権利・義務を十分にカバーしているものではない。
 
 もしここで日本の民法でなく、取引相手の国の法律や第三国の法律が適用されるとしよう。この場合、適用される法律によって契約書の規定の効力が否定される恐れがある。こうした事態に備えて、国内外の弁護士の助力などを得て法律の詳細を検討し、法的リスクを判断しなくてはならないことになる。検討を怠ると、大きな損害を被る可能性も十分にある。
  
 少し前の話だが日本企業A社によるフィリピン企業B社への輸出で、こんなトラブルがあった。A社は日本法で契約したかったのだが、B社から第三国の法律に準拠して契約するのが公平だろうと言われ、米カリフォルニア州法を準拠法として契約した。その後、A社は製品に欠陥があるということで6000万円余りの損害賠償請求を受けた。
 
 A社は契約書の免責条項を理由にこの請求を拒絶したところ、B社はカリフォルニア州法ではこの免責条項は有効でないと主張。A社は慌ててカリフォルニア州の弁護士に相談して調査したところ、確かにその免責条項は有効でないことが判明した。A社は結局、500万円近い法律調査費用を払った上に、B社の損害賠償請求に応じざるを得なかった。
 
 このように外国の法律を準拠法とする取引は、日本企業にとって法律の調査のために相当な費用・時間が必要となる上、リスク判断が不透明になる。もし日本法が準拠法として適用されれば、調査の費用・時間を節約できるばかりでなく、自社の法的リスクをより容易に判断できることになる。
 
 例えば大企業すべて、中企業の10%、小企業の1%の合計10万社が海外展開するとする。日本法を適用することで控えめに見積もって1社につき年間100万円の外国法の調査費用を節約できたとすると、節約できるコストは総額1000億円になる。
 
 事業展開による法的リスクの見通しがつきやすくなれば、より大胆・柔軟に事業戦略をたてることができる。さらに中小企業にとって重要な資金繰りにも役立つ。売買取引に日本法を適用すれば、売掛債権の譲渡も日本法適用が認められることが多く、そうなれば日本の金融機関は国内の売掛債権と同じように安心して輸出代金の売掛債権を買い取ることができる。
 
 それでは日本の民法が国際取引で適用される準拠法となる条件はどのようなものだろうか。
 
 まず、相手にとっても日本の民法が明確で公平なルールであることを理解してもらう必要がある。しかしながら現行の民法は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」(95条)など難解で、条文だけでは理解できない。
 
 判例や学説の解釈によって多くのルールが補充されており、条文を見ただけでは実際のルールが分からない。判例や学説の多くは合理的だが、外国人が理解することは事実上不可能である。日本で通用している「日本の生きた契約ルール」を法文化することが必要なのである。
 
 もう一つの条件として、外国人から見ても現代の取引ルールとして納得できるものであることが必要である。日本の民法では当事者に特段の合意がない限り、利息を計算する場合の利率は5%と定められている(404条)。民法を制定した当時のドイツが4%としていたので、後進国である日本は1%上乗せしたのである。それ以来、一度も見直しされずに今日に至っている。しかし現在の市場金利と比べて異常に高いことは明らかであろう。
 
 2005年に起きたジェイコム株の誤発注事件で、みずほ証券東京証券取引所に対して損害賠償を求めた訴訟があった。現在も係争中であるが、東証東京地裁で敗訴判決を受けた際に、107億円の賠償金に利息を加え132億円を仮払いしたと伝えられている。訴訟が長引くとその分、賠償額が膨れあがる。
 
 日本は明治時代に定めた利率を現在も使っている。各国は法定利率を変動制にするなどの見直しをしている。これでは、外国企業に対して日本の民法を使ってほしいと言っても受け入れられることは難しいであろう。このように現代社会にふさわしいルールへの見直しも必要である。
 
 また日本も加入した国際物品売買に関するウィーン条約などの国際取引ルールとの整合性も意識すべきである。海外の裁判所・仲裁機関において、日本の民法は透明性が高く優れていると理解されれば、国際取引のスタンダードとして適用されやすくなる。
 
 海外では契約法を改正する動きが広がっている。ドイツは2001年に100年ぶりに契約法を改正し、フランスも200年ぶりの全面改正に取り組んでいる。欧州連合(EU)の市場統合が進むなか、自国の契約法をEU域内の共通ルールにしようという狙いがあるとされる。市場が統合されれば契約ルールも共通化されるのは自然な流れである。
 
 アジアに目を転じてみても、中国は1999年に近代的な契約法を整備し、韓国も財産法を全面改正中である。近い将来、アジアに巨大な統一市場ができたら契約ルールをどのように共通化していくのかも重要な課題となろう。
 
 欧州やアジア各国の改正作業はグローバルスタンダード争いといえる。日本も民法を改正し、「日本のルール」を国際取引の共通ルールとして採用するよう積極的に求めていくべきである。
 
 今回の民法改正に関して、「条文を解釈で補うことにより問題なく機能しているのだから、国内に差し迫った必要性がない限り改正を急ぐべきではない」といった意見を法曹関係者から耳にするが、大変残念である。
 
 条文解釈に精通するプロと違い、法務部門を持たない中小企業、消費者や、外国人にとって契約ルールが不明確というのは問題が多い。民法改正は国家として戦略的に取り組むべき経済政策である。民法改正の意義を多くの方に認識していただき、建設的な意見交換のうえ早期に実現されることを望んでいる。
 
 おおた・みのる 56年生まれ、一橋大法卒。長島・大野・常松法律事務所パートナー