財務省頼みは両刃の剣

結局安藤さんは増税応援団なのか、そうみせつつ反対なのか。

時事深層
「野田増税」、財務省頼みの死角

安藤毅
2011年9月21日(水)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110916/222671/?mlt

(略)
 以上は財務省の理想論だが、これまでの仕掛けと野田佳彦政権の「増税シフト」が強気の裏づけになっている。

 まずは復興財源に関する周到な用意だ。民自公3党の修正で成立した復興基本法や8月の3党合意は財務省の根回しが功を奏し、復興債の償還の道筋をあらかじめ各党で検討する内容が盛られた。衆参ねじれ状態でも「3党は復興財源としての増税論議から逃げられなくなった」(財務省幹部)というわけだ。

 そこで増税論議のカギを握るのが民主党内、野党との調整力だ。野田首相政調会長の権限を大幅に強化したうえで前原誠司氏を起用。党で増税の旗振り役を演じてきた仙谷由人氏を政調会長代行に、党の税調会長に藤井氏をそれぞれ指名した。重量級の布陣で党内の増税反対論を抑え、野党との増税論議を円滑に進める思惑が鮮明だ。

 党の布陣を手厚くする一方、財務相には財政分野に不慣れな安住氏を起用。野田首相に近い議員は「首相官邸が直轄地としてコントロールする」と解説する。さらに、首相秘書官の筆頭格として、財務省はエース級の太田充・主計局次長を送り込んだ。財務省との一蓮托生が「ドジョウ内閣」の本質とも言える構図だ。

 財務省にとって当面の懸念材料といえば、増税規模の削減策の行方。例えば2010年3月末時点の簿価で政府保有日本郵政株は9.6兆円。仮にこれを売却すれば増税規模が大幅に圧縮され、消費増税論議に影響が出かねない。

 ただ、日本郵政の株式売却などには自公両党が反対する郵政改革法案を成立させるかどうかや、現在の株価水準で売却すべきかといった論点があり、大幅な増税圧縮へのハードルは高い。

 財務省への傾斜を強めることで政権基盤の安定化を狙う野田政権。奇をてらわない政治姿勢が世論から好感を持たれているが、財政健全化に比重を置きすぎ、経済を底上げする戦略への関心が薄いとの評価が市場関係者の間で広がりつつある。歳出削減など国民の痛みを軽減する措置が中途半端に終われば、国民の支持はすぐに離反しかねない。財務省頼みは両刃の剣となるリスクをはらんでいる。

日経ビジネス 2011年9月19日号10ページより