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「僕と契約して増税してよ!」だったはずが宗旨替え???

市場は国債格下げを冷静に受け止め、政府円高対策は消化不良気味
2011年 08月 24日
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-22847020110824
 
 [東京 24日 ロイター] ムーディーズによる日本国債格下げを、市場は比較的冷静に受け止めた。日本の財政状況の悪さは予め織り込まれてるほか、見通しが「安定的」に引き上げられたことで、さらなる格下げ懸念がいったん後退している。
 ただ世界経済減速や円高など日本を取り巻く環境は厳しいほか、不安定な政治が続く中で財政再建のめどは立っておらず、マーケットに安心感が広がったわけではない。政府が緊急発表した円高対策は市場でやや消化不良気味だが、企業がいかに基金などを活用するかが重要になるとみられている。
 
  <財政再建には経済成長が不可欠との指摘>
 
 市場関係者が驚いたのは、見通しが「安定的」に変更されたことだ。日本の財政状況が改善する兆しはみえておらず「ネガティブ」に据え置かれるとの見方が多かった。予想外の評価好転は「機関投資家からの売りが出始めるシングルAへの格下げの可能性が低くなったことが安心感につながりやすい」(岡三証券日本株情報グループ長の石黒英之氏)とされ、市場には安心感が広がった。
 
 ムーディーズ・インベスターズ・サービスは見通しを「安定的」にした理由について「弱まりを見せない日本の投資家の国内投資志向と国債選好を背景として、政府が財政赤字を補填(ほてん)する資金を世界で最低水準の名目金利で調達できる」としている。世界最低水準の金利と、日本国債を選好する国内金融機関の存在が、日本の財政を支えているとの判断だ。
 
 実際、10年長期国債利回りは序盤は小幅上昇したものの、午後に入り低下。続落となっていた国債先物も株価が軟調になるとプラス圏に浮上した。国債格下げのマーケットへの影響は限定的となっている。
 
 ただムーディーズ・インベスターズ・サービスソブリン・リスク・グループ・シニア・ヴァイスプレジデント、トーマス・バーン氏は24日、ロイターのインタビューに対し「大規模な赤字が今年、来年と続くと思われるが、資金調達には依然支障はなく、赤字は穴埋め可能」としながらも「長期的には、そうした低コストでの赤字ファイナンスはできなくなる、というのがわれわれの見方だ」と語った。
 
 バーン氏は、日本が債務を管理できるようになるには、構造改革を通じて、年3%の名目国内総生産(GDP)伸び率を達成する必要があるとの見方を示している。2010年代半ばまでに消費税を10%に引き上げる日本の計画は十分な解決策とはならないという。
 
 成長なき財政再建は難しいとJPモルガン・アセット・マネジメント、エコノミストの榊原可人氏も話す。「財政が悪くて格下げされることはマーケットにとってそれほど重要ではない。実際、格下げ後に米金利は低下している。問題は景気。財政が引き締められることで、景気の先行きに不安が大きくなり、リスク資産から安全資産にシフトしている」。経済を成長軌道に乗せるまで財政支出を行わなず、中途半端に終わらせたことが過去の財政政策の失敗の原因だという。

  <政府の円高対策、企業が利用するかが焦点>

 経済成長が財政再建にも不可欠であるとの観点で、きょう政府が発表した「円高対応緊急パッケージ」に期待する声もある。市場が期待した介入実施の発表ではなく、内容的にもやや消化不良の面があり、ドル/円の反応は限定的だったが、長期的に国富を増加させる対策になりそうだという。

 「円高対応緊急パッケージ」では、外国為替資金特別会計の資金を活用した1000億ドル(約7.6兆円)規模の「円高対応緊急基金」を創設。国際協力銀行JBIC)を経由し政府がリスクマネーの供給や政策融資を行うことで、1)日本企業による海外企業の買収、2)資源・エネルギーの確保などの促進──によって民間円資金の外貨への転換を促し、為替相場の安定を図ることが目的だ。

 JPモルガン証券・チーフ債券ストラテジストの山脇貴史氏は「外為特会で持っているドル資金を、いかにレバレッジをかけて経済の成長に振り向けるかということを狙っている。持っているドル資金を効率的に活かすかということだと思う」と指摘。山脇氏は、円高阻止というよりは、円高を活かしてリスクテークをできる環境を作ろうとしていると評価している。

 ただ日本の金利水準はすでに低く、6カ月LIBOR(ロンドン銀行間取引金利金利で資金を調達する「魅力」は限界的だ。緊急基金は1年間の時限措置と期限は長くない。「円高対策」として機能するかは、どれだけ企業が基金を活用するかが大きなポイントだが、企業自身が資金を豊富に抱える一方で、世界的な景気減速懸念が強まっているなか、どれだけ企業の海外展開を後押しできるかは不透明だ。

 日経平均は反落。前日の米国株の大幅続伸を好感し買いが先行したが、円高や世界的な景気減速への懸念から買いは続かず、欧州勢による断続的な売りでマイナス圏に沈んだ。TOPIXコア30は連日で上場来安値を更新。市場では「三菱UFJFG(8306.T: 株価, ニュース, レポート)や三井住友FG(8316.T: 株価, ニュース, レポート)などのメガバンクにまとまった売りが出てムードが悪化した。CTA(商品投資顧問業者)による株先売り・債先買いの仕掛け的な動きもあったようだ。買いの手がかりが見当たらない中、売り方優位の展開になっている」(大手証券)との声が出ていた。

 <政治への不安がくすぶる>
 また果敢な財政政策を政治に期待するのは難しいとの市場の声も多い。ムーディーズは今回の格下げの理由に関して「過去5年にわたり首相が頻繁に交代したことが、長期的経済・財政戦略を効果的で一貫した政策として実行に移す上での妨げとなってきた」と指摘。経済成長見通しの弱さが、赤字削減目標の達成と、「社会保障と税の一体改革成案」の実施を一層困難にしているとの見方を示している。

 欧米など海外では財政赤字が売り方のターゲットとなっており、成長に結びつかないようなばら撒きの財政政策に対する目は厳しくなっている。

 野村証券チーフ・クレジット・ストラテジストの魚本敏宏氏はムーディーズの格下げに関し「新首相の財政運営を確認してから格付け判断に踏み切るとみていただけに、タイミングがやや早かった印象だ」としたうえで「ムーディーズの立場からは、事前に格下げを発表することで、新政権の政策運営に対してけん制するとともに、財政規律の劣化に歯止めをかけたいという狙いがあったのではないか」との見方を示している。

 (ロイターニュース 伊賀大記;編集 宮崎大)

いっぽう日経は今日も平常運転なのだった(笑)

社説:国債格下げが迫る財政再建の覚悟
(日経、11年08月25日)
   
 米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、日本国債の格付けを上から3番目の「Aa2」から、1段階下の「Aa3」に下げた。別の米格付け会社も1月に、日本国債の評価を今回のムーディーズと同水準にしている。

 格付けは意見の表明にすぎないのだから、過剰な反応は禁物だ。しかし格下げにより、日本の財政への市場の厳しい見方を改めて確認できる。欧州のように、国の信認の揺らぎが金融市場を混乱させ、企業や国民に損失が及ぶこともある。

 そうした事態を防ぐために、政府は説得力のある財政再建の道筋を示すべきだ。特に「社会保障と税の一体改革」や「成長戦略」といった重要政策については、民主党代表選で議論を深めてほしい。

 ムーディーズは格下げの理由として、日本の政府債務残高の抑制を困難にしている要因をいくつかあげた。特に強調しているのは、頻繁な首相交代により一貫した経済財政の長期戦略がとれなかった点だ。5年間で6人目の首相がまもなく誕生する日本には痛い指摘だ。

 国際通貨基金IMF)によれば、日本の2011年の債務残高は国内総生産(GDP)対比で229%に達する見通しで、主要先進国では突出して高い。こうした状況から脱却するため、政府は国債などの借金を除いた歳入から、借金の元利払いを除く歳出を引いた基礎的財政収支を、20年までに黒字にする目標を掲げている。しかしムーディーズは計画に不透明な点が多いとみる。

 財政再建増税や歳出削減だけでなく、税収の増加につながる成長戦略も併せて考える必要がある。

 今の日本は東日本大震災後の超円高にさらされ、国も企業も中期的な成長を展望しにくい。野田佳彦財務相は、企業に海外投資を促す資金枠の設定などを柱とする「円高対応緊急パッケージ」を発表した。同時に、法人減税や規制改革など成長の促進につながる抜本的な政策も忘れてもらっては困る。

 米欧とは異なり、日本の国債は9割超を銀行など国内投資家が保有する。これは安定消化という点で日本の強みだが、海外の厳しい評価が伝わりにくいため、改革が遅れるという弱みにもなる。

 高齢化の進展で貯蓄の取り崩しが進みそうなことを考えれば、国内に偏った国債発行がずっと続けられるかどうかも疑わしい。市場の混乱が起きていない今だからこそ、財政健全化への道筋をきちんと示し、国の信認を守らなければならない。