【大機小機】検証なき増税論

この欄は外部の人も書いているというけど、思いっきり社説に抵抗する内容。
どうして同じ日に載ったのか興味深い。
偶然?故意?

【大機小機】検証なき増税
(日経、11年08月19日)
 
 政権末期になって、次の総理候補の政策が注目されるようになった。特に今回の争点として「増税」の議論がある。有力候補といわれる政治家が増税を主張し、これを援護射撃するかの如く、政府から増税を正当化する報告が一気に公表されている。問題なのは、求心力がない政権末期下で十分な検証を伴わぬまま、重要な政府報告が「駆け込み」了承されていることだ。
 
 検証すべき論点は多いが、ここでは社会保障・税一体改革に関する2つの点を指摘しておこう。第一は、試算のバイアスだ。社会保障のコストを負担するため、数年内に消費税率を5%引き上げることが当然のシナリオのように語られている。その根拠が、政府与党の社会保障・税一体改革成案(6月30日)だ。年金・医療・介護という高齢者3経費を賄うため、2015年度には約13兆円(消費税5%弱相当)の税収が不足するという試算が示されている。
 
 だがそこで想定された11〜15年の消費税収の伸びは年率1%強だ。政府は実質2%、名目3%の成長を目指すのではなかったのか。もしそうなら、この税収の伸びは低すぎる。増税の必要性を見せ、一定の引き上げ幅を確保するため“増税バイアス”のかかった試算を示したことになる。
 
 第二に、社会保障費の抑制のために実際どうするのかを論じていない。高額所得者への支出制限や支給年齢の引き上げなど、大幅にコストカットをすることは可能だ。
 
 8月12日、内閣府の経済財政の中長期試算で「成長戦略シナリオ」と「慎重シナリオ」が示されたが、慎重シナリオ(実質・名目成長率とも1%台)に基づいてのみ社会保障・税一体改革と財政健全化が試算されている。その結果、消費税率を5%上げても、20年に基礎的財政赤字をゼロにするのは困難であることが示されている。消費税率5%引き上げを支持する総理候補は「経済は成長しない」「社会保障費は削減しない」「それでも赤字が続くので将来さらに増税する」という3点を認めているに他ならない。
 
 ここ数カ月、総理の居座りのみが政治の関心になり、実のある政策論議が消えてしまった。結果、今後の日本経済を規定する重要な増税方針を決める基本部分が、検証されないまま了承されている。
 
 増税を支持するにしてもしないにしても、このような政策論議の空洞化を軌道修正することが先だ。(夢風)