自己造血幹細胞事前採取は「必要ない」by保安院

山根一眞のポスト3・11 日本の力
仙谷副長官「やってくれ!」が一転…JCO臨界事故で助けられなかった無念、再びの悪夢か
山根一眞
2011年7月19日(火)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20110711/221412/?P=1
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 今、大事なことは、これから10年以上にわたり危険な作業を続けねばならない方たちが、大量に被曝しても命が救える可能性のある備えをする
ことだ。虎の門病院の谷口修一さん(血液内科部長)のチームは、そのために「自己造血幹細胞」の事前採取をするよう、必死に訴え続けている。
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 翌27日(日)昼、谷口さんは虎の門病院から歩いてい行ける距離の首相官邸に福山副官房長官を訪ねている。また、翌日には仙谷由人副官房長
官にも会うことができた。
 
 この2人に谷口さんは、「自己造血幹細胞の事前採取」の必要性を強く訴え、1つの提案をした。
 
 「G-CSFを使う方法では入院が3泊4日かかるが、作業員が3泊4日も入院するのは厳しい。だが、新薬『モゾビル』の皮下注射を併用すれば1泊2
日で採取が可能となる。この迅速な採取方法の選択肢も準備しておきたい。ただし、モゾビルは米国では認可されているが、日本ではまだ認可さ
れていない。それを使わせてもらう必要があります」
 
 仙谷副長官は、「分かった! やってくれ!」と答える。
 
 モゾビルのような未承認の新薬は、医師が自分で輸入をし治療に使うことは可能であるため、谷口チームは世界中のデータを集め、安全である
ことを確認し、院内の倫理審査も済ませていた。製薬メーカーからは、必要量を無償提供するという申し出も得ていた。
 
 これで、原発作業員の「自己造血幹細胞」の事前採取の準備が整ったと期待した。
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 虎の門病院には、九州大学病院の遺伝子・細胞療法部、豊嶋崇徳准教授のチームも支援に駆けつけていた。その反応は早く、作業員を福島第一
原発の現場に投入しているゼネコンなど4社から問い合わせが入り、大手の1社は虎の門病院に来訪して谷口さんから直接説明を受け、作業員にそ
れを受けさせる機運が出た。
  
 だが、原子力安全・保安院が「必要ない」と発表したことで、谷口チームの思いはつぶされる。
  
 ところが、陣頭指揮を執るべき東京電力清水正孝社長は自宅で1週間寝込んでいた(らしい)。大企業のトップは1週間くらいは寝ないタフさ
が必須なのにとあぜんとした。あの、乱暴な「事業仕分け」を通じて理工系分野の知識や理解の貧困さが明らかとなった枝野幸男官房長官は、
「格納容器は損傷していない」という原稿を読み続けていた(実際は著しい損傷)。同じく文系出身にもかかわらず原発事故のスポークスマンと
して饒舌を重ねていた経産省の西山英彦審議官は、この国難のさなかに若い女性職員との不倫に熱中、週刊誌に路上キスを目撃され更迭されて
いった。国、原子力安全・保安院、そして東京電力の対応には、誰もが怒りを超えて脱力感を味わされ続けた。
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 健康保険の対象外であるため、およそ15万円の入院費がかかるが、これは国や企業が負担すべきものだ。5月末に東京電力清水正孝社長(5月
末に社長、経団連副会長を辞任)の年収が明らかになった。その年収約7200万円で480人分を賄える計算だ(こういう卑しいことは書きたくない
が…)。
 
 一方、谷口さんは、「個人の希望者で、費用が壁になっている方は相談してほしい。それよりも、ともかく来てほしい」と呼びかけている。ま
た、日本造血細胞移植学会の会員にアンケート調査を行い、107の施設が、作業員の「自己造血幹細胞の採取」の実施を行うという回答も得た。
福島県内の医療施設でも対応可能なのである。
 
 準備が整った4月25日、日本学術会議東日本大震災対策委員会が、「原子炉事故緊急対応作業員の自家造血幹細胞事前採取に関する見解」(5月
2日一部修正)なるものを公表した。だれもが、「一刻も早く幹細胞の事前採取の実現を!」というアピールだと期待した。
 
 だがそこには、腰を抜かすような見解が述べられていた。
(つづく)