香港空港の本屋はなぜ儲かるか

2011年3月8日(火)
香港の本屋で占う「民主化革命の行方」
市民社会」なき中国でコンセンサスは得られまい
肖敏捷
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110301/218667/
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乗降客数が世界有数の香港空港では、時計やバッグなど世界のブランド品を扱う免税店やお土産店が林立し、テナント料は恐らく安くないはずだが、なぜ、儲けの少ないと思われる本屋が意外に多いのか。香港人の鋭い金銭感覚から不思議に思わざるを得なかった。
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 近年、規制が大幅に緩和された結果、ビジネスや観光などの目的で香港を訪れる中国人が急増し、2010年、その数は延べ2268万人に達し、中国人の海外旅行総数(5740万人)の半分近くを占めるに至った。ブランド品や粉ミルクなどを買い漁る一方、知的好奇心を満たすため、「大陸禁書」を購入する訪問客も増えているとみられる。
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香港などから上海の浦東空港に到着した際、荷物検査を1度も受けたことがない。
 余談だが、成田や羽田空港の税関検査が中国以上に厳しく、とりわけ、成田空港に入る前、リムジンバスの中、あるいは駅の出口でパスポートチェックを受けるのは、日本くらいだと思う。
 毎年、数千万人の中国人が空路、陸路、水路で香港を出入りし、香港人も延べ約8000万人(1人あたり年平均10回くらい)規模で中国へ行っているという現状から考えると、水際で「禁書」の流入を防ぐのは難しい。後日、上海で海賊版の本を販売するリヤカーの露天商から前出の趙紫陽氏の本を薦められ、その限界を改めて感じた。
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 例えば、世界的な権威として知られるイギリスの経済紙の中国語版サイトは、中国の中では明らかに「異質な」存在である。記事を論評するネットの掲示板をみると、「こんな記事の掲載がよく許された」と驚く声が少なくない。恐らく、政府内部ではこのような建設的な批判を必要としているのではないかと考えられる。
 
 香港の報道によると、1989年の初夏に「天安門事件」が起きた際、その真相を中国国内の人々に知らせるため、海外から大量の報道記事や写真がファックスで中国に送り込まれたという。報道規制は昔も今も変わらないが、今の中国人、少なくエリート層はわれわれの想像以上に海外のこと、あるいは海外のメディアが中国をどう報道しているのかをよく知っている。
 
 実際問題として、汚職や腐敗の蔓延、所得格差の拡大など、反政府運動につながる火種は少なくない。しかし、反政府運動の行き着く先ははたして民主化の実現なのだろうか。おそらく中国ではコンセンサスが形成されていないのではないかと考えられる。
 
 その1つの原因は、良いか悪いかは別として、地域格差、戸籍に起因する身分格差などの拡大に伴い、今の中国社会はばらばらで、いわゆる市民社会という概念が定着していないことだと考えられる。また、ここ数年、先進国の景気低迷を背景に自由民主主義に対する中国人の憧れが色褪せてきたことも一因だと見られる。
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