中国が独占意欲「トリウム原発」とは

後進国は最先端技術を先取りすることで先進国を追い越そうとする」
というのは定石だよね。
でも今までの後進国はカネもアタマも足りなかった。
中国はどちらもあるが、経験だけがない。
というわけで初めての追い越し事例になるのか?
「民主主義国」の良い子たちはハングリー精神溢れる転校生にやられっぱなしなのか?
興味深い。
それにしても日本の科学技術へ対する補助金の少なさは異常!
なんかわざわざ日本のトリエを潰したいという悪意すら感じる
経理屋が実権を握った会社が開発経費をどんどん減らしているという恐るべき状態
誰も売上を増やすという発展戦略を考えもしない・・・

2011年3月3日(木)
中国が独占意欲「トリウム原発」とは
米国はしたたかに“潜行”、日本の出遅れ感は大きい
谷口正次
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110225/218599/
 去る1月25日、中国科学院(the Chinese Academy of Science=CAS)がショッキングな公式発表を行った。
 中国の“戦略的・先導的科学技術特別プロジェクト”としてトリウム溶融塩原子炉の開発プログラムを実施するということだ。(文新伝媒の報道による)
(略)
なお、このプロジェクトの総責任者は江沢民国家主席の子息である。
 さて、筆者は、2009年8月31日にこのコラムで『「友愛」は通用しない資源外交――“核ルネッサンス”に乗り遅れるな』と題し、トリウム原子炉に関する記事を書いた。

 それを書く動機となったのは、以下列挙するように、米国はじめ世界各国において、トリウム原子力研究・開発推進という風が静かに吹き始めたのを感じたからである。単なる状況証拠的なこともあるが。

【1】まず米国では、2009年4月5日、オバマ大統領がチェコ共和国プラハEU首脳との会談に先立って、“核廃絶宣言”といえる演説を行い、その中で、4年以内に兵器用核物質の拡散を防ぐ体制を構築する方針を表明した。

【2】オバマ大統領は、ブッシュ政権下、原子力回帰政策に伴って計画された、ネバタ州のユッカ・マウンテン(Yucca Mountain)に全米から集めた核廃棄物の最終処分場建設の中止を決定した。

【3】ネバタ州とユタ州選出のハリー・リードならびにオーリン・リッチ両上院議員がトリウム原子力の研究・開発を促進するための法案(Thorium Energy Independence and Security Act of 2009)を提出した。

【4】2010年度、米国海軍国防予算の中に、トリウム原子炉の研究を進めるための費用が10億ドル織り込まれた。

【5】米国のウラン資源保有量は世界第4位となっているが、コスト競争力のある資源は非常に少ない。しかし、トリウム資源は豊富で、高品質トリウムの大鉱床がアイダホ州モンタナ州で見つかった。

 2008年までの確認埋蔵鉱量は16万トンだったが、米国地質調査所(USGS)の最新のトリウム鉱物年報(Thorium Minerals Yearbook)によると、それが92万5000トンまで跳ね上がり、オーストラリアの30万トンを抜いて世界第1位に躍り出た。この資源量は、トリウム原子炉で、全米のエネルギー需要を数世紀の間まかなうのに十分な量であるという(REUTERS 2009/3/17の報道による)。

 このトリウムによって、米国のエネルギー独立を果せる。すなわち、ロシアの解体核兵器のウランを輸入しなくても済む。

【6】米国にはライトブリッジ(Lightbridge Corp. =2009年に社名をThorium Power ltd.から変更、NASDAQ上場)という核燃料企業があり。世界で広く使用されている軽水炉原子炉でのトリウム利用研究を行っている。同社は、2009年7月、世界最大の原子力エネルギー会社、仏アレバ社とウランを燃料とする軽水炉にトリウム燃料サイクルを利用する研究について協力協定を締結した。

【7】インド、中国、ノルウエー、カナダ、チェコ、ロシア、フランスなど世界各国では、溶融塩炉だけでなく様々なタイプの原子炉でトリウムを使えるようにする研究開発が行われている。

 それには、各国それぞれの事情がある。


インドが狙う一挙両得

【インド】ウラン資源は乏しいがトリウム資源は豊富にある。モナズ石という砂状の放射性鉱物の中に含まれる。このモナズ石は、いま中国による寡占支配で問題になっているレアアースを多く含む鉱物である。現在は、レアアース資源として採掘すると、厄介な放射性鉱物トリウムを除去しなければならないが、トリウムが原子燃料として利用できれば一挙両得だ。ウランをオーストラリアなどに依存しなくて済む。インド原子エネルギー局(the Indian Atomic Energy Authority)は、既存の原子炉1基をモナズ石から抽出したトリウムによる燃料転換することに決めた。

【中国】トリウム資源は、内モンゴル自治区にある世界最大のレアアース鉱山で発生する廃棄物の中に含まれているものである。インドのトリウム資源とは成因が違うが、レアアース抽出時に、放射性鉱物という厄介な副産物として発生するという点では同じだ。中国は2009年9月にトリウム利用に関する国際会議を内モンゴル自治区の包頭で開催した。

ノルウェー】世界第3位のトリウム資源埋蔵量を持ち、2006年にはトリウム・イニシアチブを発足させた。2008年にはエネルギーに関する国全体の大きな議論を行った。そして、トール・エナジー社(Thor Energy)が設立され、同社は軽水炉でのトリウム燃料利用に向けた共同技術開発のための国際コンソーシアムを確立すべく2010年6月にパリで、「軽水炉用トリウム・プルトニウム混合燃料に関する技術会合」を開催した。

【カナダ】2009年7月、中国企業連合とトリウム燃料協定調印。自主開発の重水炉(CANDU)でのトリウム利用技術を開発し、2010年上海の原子力発電所のカナダ製重水炉でトリウム実装試験を実施した。

チェコ】トリウム溶融塩炉の技術開発で世界をリードしている国の1つと言われる。軽水炉の使用済み燃料をトリウム溶融塩炉用燃料に変換する装置を世界で唯一所有する。ところが、2008年、溶融塩炉メーカーであるスコダ社(SKODA)がロシアのガスプロムに買収された。

【ロシア】1990年代から、クルチャトフ研究所で、米トリウムパワー社(現ライトブリッジ社)と軽水炉向けトリウム燃料の開発実験を実施。

【フランス】2009年7月、米ライトブリッジ社と仏アレバ社が軽水炉向けトリウム燃料協定締結したことはすでに述べた。また、トリウム溶融塩炉の研究開発も推進中である。

日本の原発ビジネスには“雑音”?

 以上のように、世界各国がトリウム原子力研究開発で動き出している。そして、世界各地で国際会議が開催されている。

 ここ数年でも、2009年9月、中国内モンゴル自治区包頭。2009年10月、米ワシントンDC。2010 年3月、米カリフォルニア(Google 本社)。2010年6月、パリ。2010年10月、ロンドンといった具合である。

 ところが、これらの会議に、日本の大学、研究機関、企業、関係省庁からの参加者が皆無に近い。これが気になることである。

(略)
 わが国としても、溶融塩炉方式のトリウム利用技術については世界的な水準の研究者もいるが、残念ながら、これまでわが国原子力政策と原子力産業界あるいは学界の主流派から封印され続け、あまりにマイナーな存在となっている。今こそ世界に吹き始めた風を読み、国家戦略プロジェクトとして取り上げる時期がきたのではなかろうか。

 そして、何よりも唯一の被爆国として核廃絶地球温暖化防止に世界でイニシアチブをとれる戦略的技術である。そればかりではない。新成長産業の創出、エネルギー政策、レアアース確保戦略上きわめて有望な分野である。世界の潮流に乗り遅れてはならない。