新卒無業採用?

これは興味深い記事。
ホワイトカラーの基本動作については日本では事実上OJTオンリーだった。
それが外部化=可視化されるということと、学生⇒会社員の段差を埋める「行儀見習い」期間ができるということ。
こういうグレーな就業期間を制度化する意義って大きいと思う。
職業の場合は事前情報も少なく適性や相性も測り難い。
いままでの日本の就職って一発勝負のギャンブルみたいだったからなあ。
パソナならこれに更に英語やらパソコンスキルやらをオプションでつけられるよね。
そういう意味では新卒無業の救済に留まらず、失業者の再訓練問題にも応用できそうだ。
それに「農業」も射程にいれているのはすごい。
やっぱりお役所仕事じゃなくて民間の力だよなあ。
こういう試みを邪魔しない「派遣規制」にしろよ。

時事深層
2011年2月14日(月)
パソナ、新卒無業1200人採用
白壁達久(日経ビジネス記者)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110210/218392/
 
人材事業のパソナが、今春卒業予定で就職先がない学生1200人を採用する。実務経験を積ませて就職を支援する新たな社員形態を設ける。増大する「新卒無業」学生を救う一手となるか。

 人材事業で国内大手のパソナグループが、3月から新たな形での採用活動を始める。今年4月以降、入社する社員で、「特待生社員」と「半農半芸社員」という契約社員で2種類の形態を新設する。対象は、就職先が決まらずに大学を卒業する“新卒無業”の学生だ。2011年度だけで特待生社員を1000人、半農半芸社員200人の合計1200人を迎えるという。


既卒学生の半数が正社員に

 パソナは就職環境が激変した昨春から、就職先が決まらなかった学生に対して社会人としての基礎教育を施している。それが、「フレッシュキャリア社員制度」という採用支援活動だ。

 厚生労働省の調査によると、新卒無業学生は昨年だけで8万7000人に上った。実務経験がないため、その後の就職活動はハードルがより高くなってしまう。

 同制度では、挨拶の仕方に始まり、名刺交換や電話の応対など、一般企業が新入社員に対して行う研修カリキュラムを1週間にわたり、みっちりと教え込む。そのうえで、同社が提携する約800社の企業に契約社員として紹介する。新卒無業の学生と、人手が足りない企業を結ぶ。すべて無償だ。

 昨年12月までの10カ月間で1400人の既卒者が参加し、1200人が働き口を得た。そのうち、700人はその後正社員として採用されたという。就職先は大企業が4分の3を占め、サービス業だけでなく、IT(情報技術)・通信や専門商社といった分野まで、幅広い企業が採用に踏み切った。

 フレッシュキャリア社員制度は、新卒での就職活動ですべてが決まってしまいがちな中で、雇用のミスマッチを埋めるための新たな道筋として、大学や企業が注目している。

 今回の1200人の採用は、この制度をさらに進化させた。パソナは来年度、フレッシュキャリア社員制度で今年度の1400人から4倍以上に当たる6000人を全国で募集する予定だ。

 そのうち希望者の中から1000人を「特待生社員」として迎え、パソナグループの企業の現場でOJT(職場内訓練)を行う。


パソナのフレッシュキャリア社員制度では、多くの学生が社会人の基礎を学ぶ
 特待生社員といっても厚遇されるわけではない。期限は1年間で、就業時間は正社員に比べれば少ない6〜7時間を予定する。給与は10万円程度だが、終業後はパソナが用意する専門職のカリキュラムなどを無料で受講できる特典がある。実務に近い長期のインターンシップ(就業実習)と考えればいい。働くという経験を積ませることで就業意識を芽生えさせて、自身の就職活動に生かしてもらうのが目的だ。

 「実務経験を通して気づいた職務特性をもって、自身のキャリア目標を立てる“気づきの場”が必要。それを用意するだけで、多くの学生が働き口を得られる」とパソナ南部靖之グループ代表兼社長は意義を説く。
 
 パソナはまた、半農半芸社員という新たな社員を200人募集する。同社が兵庫県の淡路島で運営する「パソナチャレンジファーム」で、午前中は農業に勤しみ、午後は自分の活動時間として自由に使える。

 芸大や美大といった芸術家を志していた学生には、就職先として一般企業を見つけるのは難しい。そこで、芸術家を目指しながらも働ける仕組みを作った。芸術家を志望する学生だけでなく、農業経営者や将来起業家を目指すコースなども用意する。処遇は月給が約7万円で、住宅サポート(自己負担は1万円程度)などを用意。期間は最長2年を予定している。



「就業意欲、学習意欲が高い」

 フレッシュキャリア社員制度を通じて、正社員を採用したある企業の採用担当者は語る。

 「就業意欲や学習意欲は、自社で採用した新入社員よりも高く、満足している」

 一度は就活競争で敗れ、先が見えない不安と戦っていた学生ほど、就職後も貪欲に学びたい気持ちが強い傾向にあるというのだ。

 企業からすれば、採用の不足分を埋められるメリットがある。実は今、人手不足に陥っている企業が少なくない。「内定切り」による風評の悪化を強く意識したためだ。

 1月31日、経営再建中の日本航空の子会社であるジャルエクスプレスが、パイロットとして内定していた学生6人の内定を一方的に切ったことが大きく報じられた。企業は内定切りによる信用やブランドの悪化を気にしすぎるあまり、採用予定数よりも少ない数に抑え、その反動から新入社員が足りないという事態に陥ってしまうのだ。

 学生の本分は勉強であり、就職活動に時間を割かれてはならないとして、日本経済団体連合会経済同友会は、就職活動の時期を3カ月から半年近く遅らせる提案をしている。だが、半年遅らせれば、それこそ卒業研究や卒業論文をまとめる時期に就職活動をしなければいけなくなってしまう。

 企業の本音は、経済環境が激しく移り変わる中、採用計画から入社までの期間をより短くして、効率的な採用をしたいということだろう。

 人材大手のインテリジェンスの高橋広敏社長は、今後の企業の採用動向を次のように分析する。

 「経済環境が短期間で大きく揺れ動く今、強気の採用計画を立てるのは困難だ。今後も、抑え気味な採用活動が続くのではないか」

 トヨタ自動車など大手企業は、卒業後3年以内の学生を「新卒」と見なして採用活動を行うとしている。だが、既卒者は「就職できなかった学生」とのレッテルを張られやすく、新卒学生と同じ基準で評価されない「空虚な制度」との指摘もある。

 厚生労働省の調査によると、今春卒業予定の大学4年生は、55万5000人。そのうち40万5000人が就職を希望しているものの、昨年12月時点で企業から内定通知を受けた学生は27万9000人にとどまる。就職内定率68.8%は、統計を取り始めた1996年以来最低だ。厳しいとされた前年の同時期と比べて、4.3ポイントも減っている。

 内定率の低下の原因には、いくつかの要因がある。大学を卒業する学生の数が20年前に比べて1.4倍近くにまで増えている。企業が採用活動を慎重にするあまり、採用予定数が減る。昨年卒業した既卒者が新卒市場になだれ込み、ライバルが増える。また、企業活動のグローバル化から外国人の採用枠を増やす企業が増えるなど、複合的な要因が現役学生を苦しめる。

 就職内定率を向上させるためには、まず学生自身が働くうえでのキャリア目標を描ける気づきの場を提供することが先決だ。

日経ビジネス 2011年2月14日号8ページより