ユーロ債危機

ユーロ圏の国債発行、新年早々に大きな試練
2010.12.31(Fri)  
Financial Times(2010年12月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5167
北半球では大抵、1月が1年で最も寒い月になるが、来る1月は、資本市場で資金調達を試みるユーロ圏諸国の政府にとって厳しい月になるかもしれない。

 1月は国債の発行が最も盛んな月の1つになる傾向がある。いち早くスタートを切って借り入れ計画を有利に進めたいと考える政府の担当部署が、多額の国債を「前倒し」で発行しようとするためだ。

1月だけで最大800億ユーロの国債発行

 複数の銀行の予測によれば、ユーロ圏諸国は来年1月に最大で800億ユーロの国債発行を試みる可能性がある。また、欧州連合EU)とユーロ圏の救済基金である欧州金融安定機関(EFSF)も、アイルランド救済のために最大で130億ユーロの調達に乗り出す見通しだ。

 各国の債務負担がずっと軽かった世界金融危機以前と比較すると、1月のユーロ圏諸国の調達額は少なくとも2倍に膨らむ計算になる。

 ロイヤルバンク・オブ・スコットランドRBS)は、2011年の国債発行額(総額ベース)を8140億ユーロと予想しており、最大でその10%が1月中に調達されると見ている。そのため新年の1月は、ここしばらく見られなかった相当厳しい年初めになりかねない。

 多くの投資家は既にユーロ圏周縁国の国債をボイコットしつつある。さらにストレスが加わることになれば、周縁国の国債市場は文字通り行き詰まってしまい、借り入れコストが一段と上昇する恐れがある。

 ユーロ圏周縁国の借り入れコスト(すなわち、国債の利回り)は10月以降急上昇している。ユーロ圏の現在の救済メカニズムが2013年に期限を迎えたら、国債がデフォルト(債務不履行)になった際の損失を投資家にも負担させるという計画を政治家たちが明らかにしたことがきっかけだった。

 この結果、アイルランドは緊急融資を要請せざるを得なくなった。また、その次に攻撃されやすい状況にあるポルトガルが、アイルランドギリシャに続いて緊急治療室に駆け込まなければならなくなるとの懸念も浮上した。
 金融取引仲介大手ICAPのエコノミスト、ドン・スミス氏は言う。「(1月は)興味深い月になるだろう。ユーロ圏の危機が悪化する恐れもある。ポルトガルは自国の国債への需要をしっかり引き出せるのか、スペインなどほかの国々についてはどうなのか、という点に投資家の関心が向かい始めるからだ」

投資家の関心が集中するポルトガルとスペイン

ポルトガルは来年の早い時期にEFSFの融資を求めざるを得なくなる・・・(写真は首都リスボンの議事堂)〔AFPBB News
 最も注目されるのはポルトガルだ。同国は2011年半ばまでに200億ユーロの借り換えを行う必要があり、ストラテジストたちは、金利の上昇が経済成長期待を損ね、それを受けて金利がさらに上昇するという悪循環に陥りかねないと危惧している。

 ポルトガル国債10年物の利回りはここ数週間高くなっており、7%を超える場面もあった。ストラテジストの大半は、ポルトガルは来年の早い時期にEFSFの融資を求めざるを得なくなると予想している。

 最も心配されているのがスペインだ。スペイン国債の市場規模はギリシャアイルランドポルトガルの3市場の合計よりもはるかに大きい。

 従って、スペインを救済するとなれば、これまでよりもはるかに大きな額の資金が必要になり、EFSF、EU、そして国際通貨基金IMF)が用意した総額7500億ユーロの資源を使い果たしてしまう恐れがある。

 スペインは来年の国債発行で調達しなければならない金額を減らしてはいるが、RBSによれば、800億ユーロという水準は過去の実績に比べるとまだ高い。もし金利が上昇し続ければ、スペイン政府もいずれ支援の受け入れを強いられる。

イタリアまで危機に巻き込まれたらユーロの永続性に疑問符
 イタリアも危機に巻き込まれる恐れがある。そうなれば、いよいよ大きなダメージとなり、ユーロ圏というプロジェクト全体の永続性にも疑問符が付くだろう。
 イタリアは既発債の規模ではユーロ圏最大の債券市場で、2011年には2150億ユーロの債券を発行する必要がある。中でも2月から3月にかけては、満期を迎える債券の借り換えや償還に500億ユーロ近くの資金が必要となる。

 イタリアはほかの市場と比べると、大きな強みがある。欧州域内のどの国よりも国債を買う国内個人投資家が多いためだ。より深刻な危機に見舞われたとしても、こうした投資家はイタリア国債を買い続ける可能性が高い。

 ただ、2010年5月にギリシャが初めて救済融資を求める国になって以来起きた出来事は、ドイツを含むどの国も慢心していられないことを示している。ドイツ自身も国債入札で何度か需要が冴えないことがあった。

1月10日に始まる週がカギ?
 2011年1月10日に始まる週がカギを握る可能性がある。この週はクリスマス以降初めて1週間フルに仕事となる週で、多くの政府が予想される発行ラッシュに先んじて国債入札に走るかもしれないからだ。

 RBSの欧州担当シニアエコノミストのニック・マシューズ氏は「ユーロ圏では、どんな可能性も排除できない。入札が2〜3度不調だっただけでも、市場心理に大打撃を与え、雪だるま効果を生む恐れがある」と言う。

 また別のバンカーは次のように話している。「最初の週は大きな違いを生むかもしれない。もし国債入札の評判が上々であれば、市場心理を好転させ、国債利回りの上昇圧力をいくらか和らげるだろう。一方、需要が弱ければ、その反対のことが起きる」

By David Oakley