レアアース、代替技術は有望

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レアアース、代替技術は有望
大西 孝弘(日経ビジネス記者)

採算が合わないため、レアアースのリサイクルは進まない。一方、代替技術の実用化は盛んで、エアコンなどで採用済み。レアアースの安定確保には代替技術への重点投資が必要だ。

 「リサイクルの事業化は何も決まっていない」。磁石大手の信越化学工業関係者はこう現状を明かす。

 中国のレアアース(希土類)輸出制限を受けて、国内でリサイクルに関心が高まっている。10月には信越化学がエアコンなどの廃家電からレアアースを取り出す事業を始めると報道された。だが実際は、自社工場内で発生するレアアースのリサイクルは始めているものの、廃家電についてはまだ意思決定には至っていないのが実情だ。

 貴重なレアアースを確保できるなら、すぐにでもリサイクルを始めるべきだと思うかもしれない。しかし、現状では採算が全く合わない。リサイクルは回収から分別、解体など一連の過程で多額のコストがかかるからだ。鉱石からレアアースを取り出した方が、格段に安く済む。

 例えば、エアコンのモーターには多くのネオジムとジスプロシウムといった高価なレアアースが含まれている。たが、リサイクルでは、磁力を取り除くなどの特殊な作業が必要。こうした作業がコスト高につながってしまう。

 エアコンなどの廃家電は家電リサイクル法に基づき、処理料金を消費者から徴収している。それでも採算が合わないということは、他製品ではさらにリサイクルが難しいということだ。

 信越化学だけではない。パナソニック三菱マテリアルと共同出資するパナソニックエコテクノロジー関東で、ジスプロシウムのリサイクルの実証研究をしている。技術的なメドは立ちつつあるが、ここでも採算性が壁になって事業化には至っていない。

レアアース60%減の代替技術

 レアアースの価格が高騰し、今秋以降はネオジムの価格は1kg当たり70〜100ドル、ジスプロシウムは300〜400ドルで推移している模様。それでも、リサイクルするにはまだ安い。東京大学生産技術研究所の岡部徹教授は、「自動車用排ガス触媒に使われるプラチナのように、g単位で価格がつかないと、つまり、もっと価格が上がらないとリサイクルでの採算は合わないだろう」と指摘する。

 一方、現実に成果が出てきているのが代替技術の開発だ。

 信越化学はモーター用磁石に含まれるジスプロシウムを60%減らせる技術を開発した。同社は耐熱性を高めるジスプロシウムを徹底的に検証。従来製品では磁石の中心と周辺部にレアアースを配置していたが、中心部の使用量を削減しても機能が落ちないことが分かったため、周辺部の配置も見直して、使用量を 60%削減することに成功した。ハイブリッド車用モーターにも採用されているという。

 既に昨年からダイキン工業などが、その磁石を利用し始めており、高級機種を中心に、今年は全体の2%で新磁石を搭載した。今後は順次、新磁石の搭載比率を高めていくという。

 ほかの磁石メーカーも代替技術の開発に躍起だ。大同特殊鋼は磁石の結晶を微細化し、熱による磁力の減少を防ぐことでジスプロシウムの使用量を半減することに成功している。同社はさらに使用量を減らした新製品を2011年から量産していく構えだ。

 レアアースの安定確保には、海外調達ルートの多様化や備蓄、代替技術の開発やリサイクルなどメニューが決まっている。政府はあらゆる対策に薄く広く予算を投じているものの、これまで費用対効果を検証してきたとは言いがたい。

 前出の岡部東大教授は、「政府は優先順位を明確にすべき」と指摘する。代替技術開発の方がリサイクルより実績が上がっているとすれば、重点投資の対象は明らかだろう。

日経ビジネス 2010年11月15日号18ページより