大貧困社会

大貧困社会 (角川SSC新書)

　
最近の「格差」ブームの便乗本のような安っぽいタイトルだが、極めてまともな社会保障の概説書だった。
著者の真摯な姿勢が伝わってくる、非常に良い本だった。
サヨク系の貧困本が敵＝政府・自民党をやっつければ薔薇色の解決策が出てくるかのごとくアジるだけなのに対して、駒村先生はそんな虫のいい話はない。みんなで少しづつ負担して社会を支えなければならないと言う。
表面的な危機を煽るマスゴミ、自分のことしか考えない高齢者、迎合する政党、に対する批判の書ともなっている。
　
つーか、馬鹿サヨと大人の違いって、この当事者性だよなぁ。まったく現実的じゃないお花畑提案をぶちあげつつ、具体的な提案を片っ端から貶して、自分だけが正しいという自己満足に浸る。そういう幼稚さがニッポンサヨクの特徴だと思う。馬鹿サヨは本当に問題を解決する気はないんじゃないか。現実なんかどうでもよくて肥大化した自我の満足が目的。
　
国民は一方で消費者であり他方で労働者である
高福祉であるなら高負担を覚悟しなければ
　
ミンスを中心とした「負担なき手厚い福祉」みたいな虫のいいことは言わないで、大人の筆致である。
先週、通勤時に共産党系の組合（国民春闘共闘＠全労連）が配っていたビラはこんな感じ。
　

企業の内部留保金の５．２８％＝２１．３兆円を使わせれば、
　
・非正規の正規化　　雇用創出３６０万人増　　　国内生産９．２兆円増
・サービス残業根絶　雇用創出１１８．８万人増　国内生産６．６兆円増
・働くルール厳守　　雇用創出１５４万人増　　　国内生産８．５兆円増
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合計　　　　　　　　　　　　　　　　　　国民生産総額２４．３兆円増！
　

　
要するに企業の儲けを没収して貧乏人に配れ！と言っているわけだが、なぜ労働条件がこんなに厳しくなり企業が内部留保をため込もうとするのか、まったくスルーである。
あたりまえのことだが日本の社会問題は日本がグローバルな世界競争にまきこまれたことによって起きたのだ。
日本人経営者が突然守銭奴に変身したからではない。
　　
・世界標準の利益を上げないと買収されるか倒産してしまう　→　欧米一流企業の利益率
・地球規模で労働力の代替性が高まっている　　　　　　　　→　中国人の賃金　　
　　
この２つに挟まれているからなのだ！！！
　
資本開国しちゃった以上グローバルスタンダードの企業に伍していかなきゃならないんだよ。
少なくとも、ゴールである利益率・株主分配率は世界標準にあわせざるを得ない。
すると、解決策は３つしかない。
　
（１）欧米企業と同様に生産部門を低賃金国（中国）に移転させる
（２）日本に生産部門を置いたまま低賃金国（中国）並みの賃金に抑制する
（３）日本に生産部門を置いたまま、商品の差別化を行い、世界的にみたら異常な高賃金を支払えるようにする
　
労組はまず世界規模での日本人賃金の水準を比較すべきだろ。
世界的に見たら、日本企業はただのワーカーに対する利益分配は非常に高い方だよ。
　
一番良いのは（３）。
日本の世界的に高水準な労働分配率を維持できるだけ差別化された高く買ってもらえる商品をつくること。
でも、そんな都合良く差別化できる商品ってなんだ？労組の人教えてよ。
たいていのものは世界最低賃金国の中国で製造できちゃうんだよ。
薄型テレビも自動車も日本どころじゃない超格差社会の韓国が安売りしちゃうし。
　
で、それでだめなら（２）。
日本労働者全体での賃金水準は中国に規定されちゃうから、こんどはその範囲内で正社員賃金を下げて非正規労働者へ回してやる。
　
それもイヤだというなら企業は日本を出ていくしかないね。
せっかく日本に留まっている企業をあしざまに言うならグローバルスタンダードの企業行動＝工場移転するしかない。
そうなりゃ、日本企業も一気に世界化して、マスコミの好きな国際化が進むし。
　
第二次大戦後から社会主義崩壊まで、日本は軍事と経済で米国の覇権にただ乗りしてきた。
憲法九条の裏には日米安保があったし、自由貿易体制下の最大の受益者であることは日本の地政学的重要性のため黙認された。
問題は、日本の団塊世代にはこのオンブにダッコの甘えた環境が米国の覇権と黙認によってもたらされているというリアルな認識がなかったことだ。
なんだ、敗戦してもそんなに酷いことにならなかったじゃん。もう大人になって責任を負うようなことやめた。というサヨク中二病である。
アメリカからすれば誰のお陰で暮らしていけると思ってんのじゃ！というところだろう。
　
にも拘わらずニッポンサヨクの、１００年１日のごとき、日本内部だけで万事解決！のような感性。なんとかならんのか。
そりゃ共産主義でＯＫな人たちだから、産業国有化、富裕層財産没収でもいいんだろうけど、共産主義者の言うことを聞いた国がどんな悲惨な末路を辿ったかしらんわけじゃあるまいて。