中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす

      

中国動漫新人類 (NB online books)

中国動漫新人類 (NB online books)


ヲタクはチャイナを民主化するか!?


      

まえがき

 中国に日本の動漫が上陸したのは1981年。手塚治虫の名作『鉄腕アトム』がテレビ放映されたのが最初である。(略)中国では、1980年以降に生まれた若者の世代を、「80后」(后は後の意)と呼ぶ。そしてこの「80后」こそが。生まれた翌年から『鉄腕アトム』が放映され、まさに生まれ落ちたときから日本動漫を見ながら育ってきた世代である。2008年時点で20代後半を頂点とする彼ら世代を、私は本書で「中国動漫新人類」と定義したい。(略)そして、彼ら「新人類」は、これまでの中国の政治体制や文化のあり方を大きく変える力を持っている──。私はそう考えている。[p8]

第1章 中国動漫新人類―日本のアニメ・漫画が中国の若者を変えた!

中国発の洗練されたファッショングッズが増え始めれば、何も日本に憧れる必要はなくなる。そうなれば「哈日現象」は自然に消滅していくだろう。(略)「哈日現象」は流行であり、「日本動漫ブーム」は文化になりつつある、というのが私の印象である。[p79]

第2章 海賊版がもたらした中国の日本動漫ブームと動漫文化

 中国の総人口13億人強のうち、動漫市場の消費者は約5億人(ちなみに18歳以下の人口は3.6億人)。年間の市場規模は約1000億元(日本円で1兆5000億円)。こちらはDVDやビデオソフト、コミック、放送料、映画興行実績といった、動漫そのものの売り上げの総計である。
 中国のテレビ局の数は中国全土の省市レベルで2000局(民間を入れると2200)を越え、そのうちアニメ専門チャンネルが4局、少年児童向け番組が289、アニメ番組が200となっている。
 これらのチャンネルの番組枠を満たすための年間必要時間数は26万分という。一方、中国国産アニメの生産量はわずか8.1万分(国家広播電影宅視総局によれば最終的に8.2万分)。年間必要量の31%しか満たしていない。(略)それでいながら、中国国内のアニメ製作会社の2006年度末の統計で5473社もある。(略)動漫のキャラクタービジネスの規模は、児童食品関係が約350億元(5250億円)/年、玩具200億元(3000億円)/年、児童の服装が900億元(1兆3500億元)/年、文具が600億元(9000億円)/年、児童向け音楽と児童出版物が100億元(1500億円)/年等々である。[p106-107]

中国における日本コンテンツ産業に対する侵害規模(海賊版市場の一部)『海外における著作権侵害の現状と課題に関する調査研究−中国調査編−』(2001年11月〜2002年10月)
    
        [侵害品規模] [侵害者の売上高][侵害率]
・ゲームソフト 約 5億4千万 約1832億円 92%
・音楽ソフト  約 6億9千万 約1915億円 67%
・映像ソフト  約19億4千万 約1752億円 89%
・合   計  約31億8千万 約5500億円 84%

第3章 中国政府が動漫事業に乗り出すとき

「国際および国内形成の深刻な変化に直面して、未成年の思想道徳建設は新しい局面に面隣しており、また厳しい朝鮮を受けている。(中略)国際敵対勢力が。我が国の(特色ある社会主義事業の)後継者たち(若者)を争奪するという闘争は、日増しに先鋭化し複雑化している。彼等(国際的敵対勢力)は、いろいろな方法で我が国の未成年者に対して思想文化の浸透を強化しており、ある意味での堕落し没落した生活様式が未成年者に与えている影響を、もはや無視することは出来ない。」[p195]

自由主義市場経済と大衆の選択。
サブカルチャーにとって、これ以上に強い力はない。
この分野では、「官」は大衆に屈服する以外にないことを思いしるべきだろう。
サブカルチャーの普及から生まれてくるのは民主主義だ。[p219]

第4章 中国の識者たちは、「動漫ブーム」をどう見ているのか
第5章 ダブルスタンダード反日と日本動漫の感情のはざまで
第6章 愛国主義教育が反日に変わるまで

日本が第二次世界大戦時に戦っていた相手は連合国軍である。そして中国すなわち当時の「中華民国」は連合国の一員だった。けれども、1945年8月15日に敗戦した日本人の多くは、第二次世界大戦で「中国に負けた」という認識を持っていない。あくまで「アメリカに負けた」と思っている。(略)そして、中国のこういした対日観を前面に押し出すきっかけとなる「事件」が起きた。(略)
──95年5月9日。第二次世界大戦終結50周年という大きな節目にあたり、冷戦構造崩壊後の旧ソ連すなわちロシアにて、「世界反ファシズム戦争勝利50周年記念大会」が開催された。当時の中国の国家主席江沢民は、同じく当時のロシアのエリティン大統領の招聘を受けて、会議に出席した。(略)舞台下の宴会場には、江沢民国家主席がいた。しかしいつまでたっても江沢民の名前は呼ばれない。見ればアジアから来た国家代表は江沢民だけではないか。欧米首脳にのみ舞台に上がらせて、これだけ「ファシスト」の一員である日本と「抗日戦争」を戦い抜いた中国人民を代表する江沢民を舞台に上げないとは何事か!(略)
「私がここで特に明らかにしなければならないのは、ソ連アメリカ、イギリス等の反ファシズム同盟国家は、中国の抗戦に人力的にも物理的にも絶大な支援をしてくれた。したがって抗日戦争に勝利した赤旗の中には、こういった各国の友人たちの血の跡が刻まれているということだ」[p317](江沢民の親米宣言)

⇒愛国=反日教育は1995年からスタートした。(1989年からではない)
⇒「抗日戦争」における国民党評価→反日運動は海外華僑華人から始まった。
第7章 中国動漫新人類はどこに行くのか
あとがき

 こうした全体主義的な意見のまとまり方は、やはり共産主義のなせるわざなのか。いや、実は違う。本文でも記したが、中国の政府と国民の抱える「大地のトラウマ」が原因だ。
 1920年代から始まり第二次世界大戦後に本格化した、中華人民共和国に政権が移る中国国内の革命。この革命の中心を担ったのは、それまで農奴のような扱いをされていた農民たちだった。地主に反旗を翻したからには、絶対に失敗は許されない。失敗すれば自分が血祭りに挙げられる。革命の指導者であった毛沢東はこの恐怖心を逆に利用し、縛られて吊るし上げになっている地主を囲んで、農民達に地主を激しく罵倒する「踏み絵」をさせた。(略)だから誰かが「反革命だ!売国奴だ!」と叫び始めたら、自分は「叫ぶ側」につかなければならない。しかもできるだけ「大声で」叫ばなければならない。そうしなければ。いつ自分が逆に「反革命」あるいは「売国奴」のレッテルを貼られるか、わからないからだ。そのレッテルは中国においては「社会的死刑」を意味する。
 私はこの現象を、本書で「大地のトラウマ」と名付けて分析した。[p435-436]