必要なのは経済成長

スティグリッツ教授の真説・グローバル経済
【第18回】 2011年9月15日 ジョセフ・E・スティグリッツ
欧州とアメリカに互いに伝播する“間違った考え”
http://diamond.jp/articles/-/14027
(略)
 だが、彼らは支援を約束すると同時に、非危機国は歳出を削減しなければならないという考えをさらに強めた。その結果取られる緊縮政策は、ヨーロッパの成長を妨げ、したがってその最も困窮しているメンバーの成長を妨げるだろう。なんといっても、貿易相手国の力強い成長ほど、ギリシャを助ける効果のあるものはないからだ。低成長は税収を悪化させ、緊縮政策が目指す財政再建という目標を損なうだろう。

 危機の前の議論は、経済のファンダメンタルズを立て直す策がほとんど取られてこなかったことを示していた。あらゆる資本主義経済に欠かせないこと――破綻した、すなわち支払い不能になった経済主体の債務の再編――に欧州中央銀行(ECB)が猛反対したことは、欧米の銀行システムが依然として脆弱であることをはっきり物語っていた。
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 実際、ECBの立場で最も奇妙である点は、債務再編はクレジットイベントに該当すると格付け会社が判定した場合には、再編後の国債は担保として認めないと脅しをかけたことだ。再編の目的は、ひとえに債務を一部免除して残りの債務をより対処しやすくすることにあった。国債が再編前に担保として適格であったなら、再編後はより安全になっているはずであり、したがって等しく適格なはずだった。

 このエピソードは、中央銀行が政治課題を持つ政治機関であること、また独立性を保っているはずの中央銀行が自身の規制対象である銀行に支配される傾向があること(少なくともそう「認識」されること)を、あらためて思い知らせるものだ。
(略)
 赤字を増大させる最も重要な要因は経済成長の弱さによる税収の伸び悩みであり、したがって最善の処方はアメリカを成長軌道に戻すことだ。債務問題に関する先頃の合意は、間違った方向への動きである。
 
 欧米間の金融危機の伝播についてはずいぶん懸念されてきた。なんといっても、アメリカの金融不始末がヨーロッパの問題を引き起こすうえで重要な役割を演じたのであり、ヨーロッパの金融不安は――とりわけアメリカの銀行システムの脆弱さと不透明なCDS市場に銀行が引き続き参加していることを考えると――アメリカに好影響はもたらさないだろう。
 
 だが、真の問題は別の伝播から生じる。間違った考えは簡単に国境を越えて広まるもので、大西洋の両側の間違った経済政策は互いに補強し合ってきた。それらの政策がもたらす停滞も同様に補強し合うことになるだろう。