朝鮮の核問題 by 小出裕章

2003年6月14日(土)
朝鮮の核問題
京都大学・原子炉実験所 小出裕章
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/KoreanN.pdf
(略)
そこで仮に、朝鮮が使用済燃料の全量を再処理して原爆を作ったとしよう。その場合には、最大で約 20kg のプルトニウムが得られることになる。長崎型の原爆を作るためには約 8kg のプルトニウムが必要といわれており、20kg のプルトニウムではいくら頑張ってもせいぜい 3 発の原爆しかできない。(略)でも、厖大に核兵器を持っている国が、あるやないや分からない国に対して「悪の枢軸」というレッテルを貼り、制裁するなどという主張は決して認めてはならない。(略)
 
 日本のマスコミなどは、米国発表をそのまま流すだけであるが、そもそも朝鮮に関する歴史の流れを理解していない。朝鮮は 1910 年の日韓併合以来、日本の植民地支配の犠牲となり、創氏改名朝鮮語の禁止、天皇の崇拝などを強制された。1945 年の日本の敗戦は、多くの朝鮮人にとっては大日本帝国からの解放と受け止められた。
 
 しかし、日本と米国との戦争は、悪逆非道の日本と正義の米国との戦争であったわけでは決してない。それは世界の覇権を狙う両帝国同士の戦争であり、圧倒的な力の差の下に米国が日本を完膚なきまでに打ち破った戦争であった。しかし、米国は当時の共産主義との確執を前に、日本や朝鮮を東洋における共産主義の防波堤にしようとした。そのため、日本では天皇はその戦争責任を問われないまま温存されたし、朝鮮でも日本統治下の役人がそのまま政権に居座ることが許された。そのため、本来であれば日本の植民地から解放され、晴れて独立を果たすはずであった朝鮮は、血を血で洗う内戦へと導かれて、南北に分断されたのであった。
 
 1948 年に大韓民国朝鮮民主主義人民共和国が相次いで独立を宣言し、1950 年 6 月にはついに朝鮮戦争に突入。38 度線で膠着した戦争は、1953 年に停戦協定に至った。その後、すでに半世紀の時間が流れたが、朝鮮と米国の間では依然として停戦協定があるだけで、戦争状態が続いているのである。その一方の当事者である米国は核兵器生物兵器化学兵器大陸間弾道ミサイル、中距離ミサイル、巡航ミサイル、ありとあらゆる兵器を保有し、自らの気に入らなければ、国連を無視してでも、他国の政権転覆に乗り出す国である。そうした国を相手に戦争状態にある国が朝鮮であり、武力を放棄できないことなど当然であるし、核を放棄するなどと表明できないことも当然である。
 
 ちなみに、日本はベトナム特需とともに、朝鮮特需をもって、戦後の経済を立て直したのである。そして今なお、米国につくのが国益だと、戦争を放棄したはずの憲法も無視して、弱いものいじめに荷担する。(略)
 
 徹底的な差別の世界になんとか抵抗するということが、今私たちがなさねばならない一番大切なことだと私は思う。