田邊耕二氏【後編】

ううむ。なんとなくアリがちなグローバル化論のようにみてしまいそうだが、漏れはこの人の言うことはほぼ正論だと思う。
しかし実は「日本人が」国際化する、という前提が隠れているように思える。
その点を南さんはわかっていないっぽい。
でもまあ、日本にもこういう企業が存在することで日本人にとっての最適解を見つける助けになると思う。

経営請負人の時代
【第5回・後編】 2011年5月24日 南 壮一郎
年功序列・終身雇用は消滅。
言語と技術と主体性を持つ者だけが“能力序列”のグローバル時代を生き抜く
――ユーシン社長・田邊耕二氏【後編】
(略)
南 中国やインドのビジネスパーソンが当然のように英語を話せるのに対し、日本人は英語を話せる人が非常に少ないことについて、どう思いますか?
 
田邊 困ったものですよね。語学力の低さはもちろん、自分で決断することが苦手な国民性であることとは大きな問題ですよ。
 そもそも、一度受かったら年功序列でどんどん地位が上がっていくシステムを、未だに国家公務員が踏襲している段階で、すでにおかしいのです。これからはグローバルの時代です。それは単純に英語を話せればいいというわけではなくて、競争が世界規模に拡大する時代が来ることへの自覚があるかが問われているのです。
 たとえば、何か政治的な不満があった時、海外ではデモを大々的に行います。でも日本ではそういった動きは稀です。主体性がそもそも低いのです。これは会社での働き方にも影響しています。主体性が低いという、もともと私達が持っている国民性のハードルも超えなければいけないのが、日本人の宿命ですね。
 
南 日本のビジネスパーソンがこのグローバル化で勝ち残っていくために、英語の習得以外にスキルアップすべきポイントはどこでしょうか?
 
田邊 語学と技術、そして主体性の3つですね。これが非常に大きなウェイトを占めます。逆に言えば、この3つをしっかり押さえていれば成り立つ時代です。
 
南 私は、お金の流れに関する知識も大切だなと思うのですが、どうでしょうか?
 
田邊 たしかに資金に対するマインドは大切です。今、融資を受けにくい時代のように見えますが、お金は、貸して返ってくるなら、貸したい人はたくさんいるのです。ただし、条件としては会社がちゃんと存続するかが重要です。このあたりのことが分かるマインドが備わっているに越したことはないです。
 
南 20代、30代の転職は、2、30年前に比べて普通のことになってきましたよね。今後の40代、50代の管理職での転職は企業としてどう受け止められますか?
 
田邊 よっぽど技術が優れている場合は別ですが、そうでなければ語学ができないと終わりだと思いますね。語学ができない人は採りません。
 
南 多くの日本企業において海外の売り上げ比率が増えていく中、語学はもう特殊技能というよりは必須ということですか。
 
田邊 そうですね、特に製造業の場合、日本にはバイリンガルが少ない。さらに多くの企業で、商社が海外の営業を代行してきたという日本特有の特異体質もありますね。
 
南 働き方の変化が起こるにつれ、これからのビジネスパーソンはどういうキャリアを歩むべきでしょう?
 
田邊 20代前半ならば、早いうちにTOEIC900点のレベルになれとよく言っています。語学力がベースにあって、さらに専門技術や生産管理能力を兼ね備えないと、一人前になれない時代だと思いますね。
 
南 なるほど。若い人の海外で働くモチベーションはどれくらいものなのでしょうか?
 
田邊 海外で仕事をしたいという若い人は多いですね。特に、当社では女性に多いです。当社でも今後海外拠点への配属がどんどん増えていくでしょう。
 
南 日本企業のマネジメントの方法論というのはどのように変化していくのでしょうか?
 
田邊 海外拠点の現地人も幹部として雇用することを当社の方針として決めています。それから、国内の年功序列、終身雇用を廃止した場合、モチベーション維持管理のチェック機能をより合理的にしないといけないと思っています。昔は退職金や福利厚生を逆手に取って、「悪いことしたらなくなるよ」とまでは言わないまでも、それ相応の締め付けができたわけです。それを無くすとやはり管理体制でそれをカバーしないといけません。
 
南 社内の40代の方々にはどんな言葉で鼓舞されていますか?
 
田邊 語学もできないダメな人は、辞めてもらわないと仕方ないというのが基本ですね。私が親しくしている日本精機株式会社という会社があるのですが、そこの前の社長が言っていたことに印象深い言葉があります。
 
「言わなきゃ分からないような人は、いくら言っても分からない。言えばわかる人は、言わなくてもすでに分かっている」
 
 これは真実だと思いますね。40歳になってグローバルの時代に即応できない人は、言われるまでその兆候に気づけなかったわけですから、落伍者になって当然です。そのことは、ずっと前から分かっていたはずです。私が社長公募に踏み切ることになった10年以上前に。
 
南 確かに、何年も前からすでに気づいていた人は、兆候が現実になったら即応できますね。しかし、気づいていなかった人は淘汰されて当然であると。それでは、マネジメント層の外部登用について、30代、40代に期待をされることはありますか?
 
田邊 できる人はすでに成功している年齢ですよね。語学をふくめ、自分で能力開発ができている方なら、何歳でもウェルカムです。しかし残念ながら、人間には習得できる能力の大体の時期は決まっているものです。
 たとえ話のようになりますが、人間は赤ん坊で生まれて、ひとつずつ能力を習得していくという考え方の人が多いと思います。しかし、私は違う考え方です。人は生まれたばかりの赤ん坊の時に、全ての能力を持っていると思います。そして使わないと、ひとつずつ能力が欠落していく。
 さらに能力には使われるべき適正年齢がある。いい例は、聴音です。聴音は5歳か6歳までにその能力をつけないと、もう一生身につかない。ところが一度習得すると一生使うことができる。語学もそうです。適正な年齢に身につかなかったら、もう手遅れなのです。
 正直なところ、30代、40代で語学ができない人に、これから語学ありきのビジネススキルを期待することは、ほとんど無いと結論を出さざるを得ません。
 
南 まったく逆に話を展開してみますが、グローバル化が進む状況下で、先の雇用問題も含め、国内向け産業の需要を企業は高めることができるものなのでしょうか?
 
田邊 今の状況下では不可能だと思います。まず人件費の問題がありますし、時代がそれを必要としていないという背景もあります。
 もし、業界自体を国策等で守られる構造にした場合も、成長が期待できません。今、日本の米の関税は1100%です。つまり1000円の米を買うのに1万1000円で買っているわけです。国の産業を守るという大義名分があるので、あまり言及されませんが、こんなバカげた話はありません。国は本来、農協を改革し、関税を低くする方向に努力しないといけない。今はまったく先の見えない守りの状態が続いているだけなのです。こんなことを続けてしまうと日本がだめになってしまいます。
 
南 なるほど。国や会社が守ってしまうと、その企業や組織が弱体化してしまうということですね。そこを今回の御社の改革のように、会社自身が会社に負荷を与えると、社員もがんばろうとするし、組織も成長する、と。
 
田邊 そうです。1100%の関税なんて冗談じゃないです。それに自給率が40%というのも低い。農業自体も生産性を上げて原価を下げるように努力すべきというのが本来の姿だと思いますね。
 
南 守られているから成長しないわけですね。田邊社長は、会社をオープンにして、きっちり競争関係と評価のシステムをセットで作って、そしてグローバルで戦おうとしている。それでついて来られない人は、脱落しても仕方がないわけですね。
 
田邊 やっぱり競争が重要です。産業全体がそうですよ。守られている場合ではない。
 
南 これからの30、40代で主体的にキャリアを作っていく方へメッセージをいただけますか?
 
田邊 やはり自分にムチを打たなきゃ向上しない、ということです。これからは年功ではなく、個人の能力による序列の時代です。楽に能力が伸びる方法なんてありません。やっぱり自分で自分にムチを打って努力しなければなりません。
 
南 日本における戦後の努力は、みなが自分で自分にムチを打って成し得てきたものですものね。その真似をしろとは言わないまでも、先人に倣って自分の方法で努力をすると。キャリアは自分の力でつくるということですね。
 
田邊 楽な方法をついつい考えがちですが、そんなうまい方法はない、ということです。楽な方法があるかなと思っても、そんなことはすでに誰かが試して、無意味であることが実証されているはずです。みな必死なのですから。
 
南 30代、40代の、これから活躍する経営者の給与体系についてはどのようにお考えでしょうか?
 
田邊 私はもう40年以上自分でこの会社を経営してきました。その経験を踏まえて言うと、とにかく日本の経営者の給料は安すぎます。グローバルの舞台で経営をしていくのであれば、億単位のレベルで考えないといけません。事実、アメリカと比べたら日本の企業の経営者は5分の1から10分の1くらいしかもらっていないのですから。
 
南 そうですね。事実、新入社員と社長の給料の格差がなさすぎです。インセンティブの作り方がよくないように思います。それが売上高と利益にしっかり連動した給与体系があるべきというのは、まさに田邊社長のお考えですよね。
 
田邊 そうです。今度の社長の年収は、6000万円にします。さらに言えば6000万円が妥当だとも思っていません。当社の潜在能力を十分に引き出して、きちんと利益を出す仕事をつくれば、2億円、3億円は当たり前だと言っています。
 
南 そういうところにこそいい人材が揃い、結果的に世界でも戦えるということですね。なるほど、勉強になります。グローバルの舞台でますます躍進されていくことを期待してやみません。