“電力自由化”論議再燃は必至

時代的制約から止むを得ない棲み分け制約というものはある。
今回の震災で明らかになったのは、電力統制・マスコミ統制はもう時代遅れだということだ。携帯電話で20年前に始まったことがこの2分野でも始まるだろう。
そのための孫正義の100億円なのだ。

WEDGE REPORT
東電ショック 電力会社のすみ分けを崩すか
2011年03月25日(Fri) WEDGE Infinity 編集部
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1285

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 東日本大地震やその後の大津波などによって原子炉の損壊など大被害を受けた東京電力福島第1原子力発電所福島県大熊町双葉町)。大幅な電力の供給不足に陥った東電は供給エリアの関東一円で計画停電に追い込まれたが、一方で戦後の10電力体制 の矛盾を一気にあぶり出した。

 戦後の電力事業は「国の関与を極力排する形」(電力業界関係者)で進められ、原子力開発も、“国策民営”だった。だが、今回の大事故は東電に廃炉処理や地域住民に対する補償などで莫大な費用負担を生じさせるのは必至。関係者の間からは「東電の一時国有化」の話も出始めており、戦後長く続いてきた10電力体制(注)の解体・再編へ一気に進む可能性もある。

東電管内の電力供給をどう確保する?
 東電の総発電能力は6449万?ワットだが、このうち原子力は1731万?ワットで、全体の28%を占める。だが、立地場所は福島第1、福島第2(福島県楢葉町富岡町)、柏崎刈羽新潟県柏崎市刈羽村)で、いずれも東北電力の供給エリアで、東電にとってはエリア外だ。

 供給エリアが、人口が密集する首都圏のため、「エリア内では原発の立地場所を確保するのが難しかった」(電力業界関係者)という事情がある。東電では福島、新潟に続く3番目の立地拠点として、青森県東通村での建設準備を進めているが、これも東北電力の供給エリアだ。このため立地先の地元からは「首都圏の電力をなぜ、我々が補う必要があるのか」という素朴な疑問が強く、東電では立地地域の振興策など地元対策に力を入れてきたという経緯がある。

 今回の福島第1原発の大事故はこうした地元の反発をより拡大する可能性が強く、廃炉が予想される福島第1は別にしても、地震で停止した福島第2原発や定検中の柏崎刈羽原発の3基の再稼動も非常に難しそうだ。

 このため、電力需要期の今夏に向けて東電では休止している横須賀火力発電所の再稼動や、地震の影響を受け休止中の鹿島火力発電所などを早期に立ち上げる方針だが、「それでも最大1500万?ワット程度の不足が予想される」(電力関係者)。

 10電力体制の補完策として力を入れてきた電力の広域運営も今回の電力不足対策としてはそれほど寄与しそうにない。日本の電力設備はほぼ糸魚川・静岡構造線を境に東の周波数が50ヘルツに、西が60ヘルツとなっている。歴史的に日本に電力設備が導入された際、東地域はドイツのシーメンスを中心とした技術、西地域は米国のウェスティングハウスを中心とした技術に由来するためだが、周波数が異なると電気はそのまま送電できない。

(注)10電力体制:国家管理だった戦前の電力行政が1951年に民営化して以来、民間電力会社9社が割り当てられた地域内での電力の発電から送・配電までを一貫して担当している。
現在では、この9電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力関西電力中国電力四国電力九州電力)に沖縄電力を加えた10電力体制で運営されている。
 このため電力業界では、各電力会社間の供給エリアを越えた電力需給の安定性、効率性を高める狙いから、周波数の異なる東西間の佐久間(電源開発)、新信濃東京電力)、東清水(中部電力)の3ヵ所に周波数変換所を設けている。ただ、3ヵ所合わせた容量は最大100万?ワット、非常時に西地域から送電するにはあまりにも小容量だ。また、同じ50ヘルツ地域の北海道電力からの送電も、北海道と本州を結ぶ北本連系線の容量は60万?ワットに過ぎない。

 今回のようなケースとしては、2002年に東電で原発のデータ隠しが発覚し、東電の全原発17基がすべてストップしたことがあった(2003年4〜6月)。夏場の大停電が危惧され、東西連系線の拡張などが論議されたが、「投資額が莫大で、それなら自前で発電所を建設した方がよい」(電力業界関係者)として頓挫した経緯がある。

 今回、中部電力静岡市にある東清水周波数変換装置の能力を増強することを決めた。今年5月にも東京電力への送電能力を3万?ワット増やす計画だが、電力不足に対応するには微々たるものだ。

電力自由化論議再燃は必至
 このように、エリアを越えた送電インフラの構築が進まなかった背景には何があるのか。戦後の電力事業は、戦前の国家管理体制への反省から「極力、国からの独立を目指してきた」(電力業界関係者)。その象徴が業界団体である電気事業連合会の運営。日本鉄鋼連盟などほとんどの業界団体が法人格を持ち、事務方トップの専務理事には通産省(現経済産業省)OBが座っているのに対し、電事連は任意団体で、事務方トップ(専任副会長)には東電の副社長クラスが就き、「国のエネルギー政策は通産省と東電の間で事実上、決められた」(同)といわれてきた。

 具体的には各電力会社にはエリア内での地域独占とともに供給責任が課せられた。これを担保してきたのが「コストに一定の利益を認めた総括原価方式に基づく電力料金体系だった」(同)わけだ。このため、各電力会社は供給エリアの発展が自社の成長にも結びつくとして、供給エリア内での産業育成などに尽力してきた。

 この体制に風穴を開けようとしたのが90年代後半の“電力自由化論議だった。「日本の電力料金は世界標準に比べ高過ぎる」というのが発端で、そこでは電力事業の発電部門と送・配電部門を分離する、10電力体制の事実上の解体まで踏み込んだ議論が行われたが、最終的には独立発電事業者(IPP)の拡大や大口電力料金に入札制度を導入するなど地域独占が若干、緩められる形で終わった。
東電株ガタ落ち 電力行政の正念場
 今回の大地震に伴う関東エリアや東北エリアでの電力供給不足が戦後の10電力体制の是非について再び議論を巻き起こす引き金となることは必至だ。焦点のひとつが東電の資金調達問題。東電など電力各社は、原発建設などに伴う膨大な必要資金の大部分を、社債発行によってまかなってきた。

 だが、今回の原発事故によって株式市場での東電株は大暴落。「社債市場での信用もガタ落ちで、現状では社債による多額の資金調達は無理」(電力業界筋)だ。このため廃炉費用や地域住民、企業などに対する補償は国の支援を仰がざるを得ない。これまで国の関与を極力排してきた電力業界は東電に対する国の支援をどのように受け止めるのか。電力業界にとって今回の危機は、前回の自由化論議以上に深刻だ。