でも、私はその切符を使わないだろう。

福島原発事故に思う・・・・
 
私は今朝、名古屋から東京へと向かった.
家を出るときに家内がそっと新幹線の自由席の切符を私に渡してくれた。
東京が汚染されたとき、駅はごった返し切符がなければ乗れないと心配してくれたのだ。
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でも、私はその切符を使わないだろう。
東京が10ミリシーベルトになったとき、大勢の人が西に逃れる.新幹線はパンクし、大混乱になるだろう。
いや、日本人は大丈夫と思う.どんなことになろうとも・・・
我々は整然と、まず妊婦、赤ちゃんを送り出そう.次にお母さんと児童生徒学生だ。それが終わったら働き手がいるから現役を送る.
すべては整然と自制心をもって日本人は行動すると思う.
そして婆さんは在来線を使ってもらい、私たち年老いた男は誰もいない東京を掃除して徒歩で離れよう.新幹線の運転手は若いのだから先に逃げて欲しい.
私がこの日本に恩返しができるとしたら、それは汚染された東京に残ることなのだ。
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私は痛い足を引きずって東海道を西へと進む.
不思議なことに強い西風が吹いている.
とある民家について一夜を明かしていると激しい雨が降って空気中の放射性物質を洗い流してくれた。
そういえば私は小さい頃から病気がちで免疫力はついている。
そういえば私はこうして両親から授かった命を長く楽しんできた。
今更、思い残すことはなく、こうして若い人を助けることができたなら本望だ。
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でも、案外、私は持つかも知れない。
人を死に追いやるもの、それは絶望だ。
人を死から救い出すもの、それは希望だ。
私には希望がある。10ミリシーベルトになっても日本人の誇りと自制心で多くの赤ちゃんが助けたこと、それが私の明日の希望になる。平成23年3月19日夜 東京にて)
 
福島原発も最悪な時期を過ぎたので、なにかホッとしてゆったりした気分になり、私の今までの気持ちを書きました。明るい希望がわいてきたような気がします.
 
武田邦彦