なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか
- 作者: 若宮健
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2010/12/01
- メディア: 新書
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あなどれない新書たち
パチンコを全廃した韓国、やめられない日本
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20101215/254789/?P=1
現在のパチンコは社会の害悪であり、韓国のように廃止すべきであるという立場からパチンコの問題点をえぐった稀有(けう)な書である。
いま、パチンコも消費者金融と同様、時代と共にずいぶん変わったという印象を多くの人が持っているのではないか。パチンコは30〜40年前は“賭博の一種”には違いなかったが牧歌的なところがあった。出玉をタバコやチョコレートに替えて楽しんだり、換金してもそれほどの大金にはならなかった。
まして、手持ちの金がなくなれば悔しいけれどそれで終わり。収まりがつかなくてもせめて誰かに小金を借りて済ますくらいだった。
それがいまは、出れば大金を手にするが、あっという間に数万円をすってしまうこともある。おまけに資金が不足すれば店内のATMでお金を下ろしたり、カードで借金して資金を作ることもできる。動かす金額が多くなればより射幸心をあおられ、遊技を繰り返すうちに依存症に陥るのはギャンブルの常だ。
若者や主婦だけでなく、最近では高齢者がパチンコに熱中し、年金をつぎこんで生活を圧迫させるといった現象が起きている。60歳以上のパチンコ人口は急増しているというデータも出ており、依存症にかかる人も増えて弁護士への相談も相次いでいるという報道もあった。
地方を訪れると、繁華街の商店街が寂れている一方で、郊外にはきらびやかなパチンコ屋が建ち、平日の午前中でも駐車場には結構車が止まっているのを目にする。景気が悪いなか、仕事はなくてもカネを借りるのは便利になったし、すぐに使い果たす場所もあるというのは皮肉なことだ。
こうした現象は明らかに社会の健全性を損なっているはずだが、マスコミ、特にテレビは消費者金融と同様にパチンコのCMで射幸心をあおりこそすれ、真正面から社会問題としては取り扱っていない。広告収入が減少する中で背に腹は替えられないと、マスコミはかつては自粛してたパチンコの広告を楽しいゲームのように掲載、放送している。
また、昔から言われていることだが、パチンコ業界は警察官僚の天下り先でもある。本書では、パチンコ・パチスロの遊技機の検査なども行う財団法人保安電子通信技術協会の会長は元警視総監であることなどを指摘する。さらにパチンコ産業と政治家との関係の実態を明らかにしているが、この部分を読んで正直目を疑った。
与党にパチンコ産業を応援する「民主党新時代娯楽産業健全育成プロジェクトチーム」なる組織があり、その活動目的として、「パチンコ店内での換金を認めることを法律上明記する」、「ギャンブルではなく遊技であると明確に位置付け、依存症対策などの社会的使命を免除する」、「遊技場の検査機関から警察庁の影響力を排除し、賭博性の高い機種の検定通過を容易にする」などが紹介されている。
メダルチギといわれる韓国のパチンコは、より射幸性の高い機械への変造問題などをめぐって、当時の盧武鉉政権を揺さぶる贈収賄事件へと発展した。韓国でも日本同様に依存症が社会問題にもなっていて、マスコミもパチンコに対して厳しい批判を浴びせた。それらによって、メダルチギは全廃されることになった。
だが、日本では政治も行政も、そしてマスコミもパチンコの悪弊を真剣に取り上げないと著者は嘆く。有名芸能人もパチンコの宣伝に一役買い、そのCMで成り立つテレビなどの報道番組では、他の依存症などの社会問題をジャーナリストや批評家が批判を交えてコメントする。もちろんテレビ局から報酬を受けてのことだ。
「パチンコ批判を続けるのは、筆者のような一匹狼しかいない」という著者は、営業マンやタクシー運転手などを経験した異色のジャーナリスト。「日本社会のため」として、これだけパチンコを真剣に真っ向から批判する著者の動向を今後注目したい。