“理想郷”スウェーデンモデルの内実

2010年12月1日(水)
“理想郷”スウェーデンモデルの内実
企業の国際競争力と手厚い生活保障はいかに両立するか

人口約900万人という小国ながら、世界的な製造小売りのH&M(ヘネス・アンド・モーリッツ)や家具チェーンのイケアなど、国際的に存在感のある多国籍企業を生み出しているスウェーデン。日本人には社会主義的で「高福祉、高負担」のイメージが強いが、実際には資本主義的な企業の競争力強化政策によって個人の生活保障政策が支えられている。福祉の面ばかりが強調され、全体像はあまり知られていない。

 スウェーデン在住10年、ヨーテボリ大学経済学部博士課程の研究者である佐藤吉宗氏は今月、そんなスウェーデン経済の実像を紹介する『スウェーデンパラドックス』(日本経済新聞出版社)を共著で上梓した。佐藤氏に、スウェーデンにおける産業振興政策と社会保障、そしてそれが実現している生活風土について詳しく聞いた。
(聞き手は日経ビジネス記者、広野彩子)

(略)
名目法人税率は26%台

 ところがそうでもないのです。スウェーデンでは名目の法人税率が26%台、その上に租税特別措置もありますので実効税率はそれよりもさらに低くなっています。一方でスウェーデンにおける年金保険料は、個人の支払い分は最終的にすべて所得税から控除されるので企業のみの負担ですが、法人税率の低さを考えると、トータルでは決して日本企業より負担が大きいとは言えないんですよ。
(略)
ですから一方では、国民が大きく手取りを増やすのはなかなか難しいです。低所得者にも自立を求めるので甘くはありません。年収70万円程度から所得税率25%が課せられますし、140万円を超えれば30%以上にもなります。年金生活者にも同じ税率が課せられます。 付加価値税も、25%と高いです(ただし、食料品は12%、新聞・書籍・文化活動は6%の低減税率)。
(略)
そしてそうした強い社会保障制度は、まず競争力の強い企業とそこでの雇用があってこそ成り立ちますから、企業のフェアな競争環境も整備されています。様々な意味での次世代育成や老後、あるいはいざという時のことを考えつつ負担はフェアにするという点で、国家の未来をよく考えている国だと思います。