ヒトラーの特攻隊
- 作者: 三浦耕喜
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: 単行本
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第二次大戦末期のドイツ空軍の特攻攻撃について、きちんとまとめられた日本で初めての本です。
当時の情勢とか、日本の特攻がドイツでの作戦実施に与えた影響、戦後何故ドイツでこの特攻攻撃が語られなくなったか?とかも書かれてます。この本では、
・1945年4月7日にアメリカ爆撃部隊に向けて出撃したエルベ特別航空隊の戦い
・1945年4月16〜17日に行われたオーデル川にかかるソ連軍橋梁への体当たり攻撃の2つの作戦を参加者の証言を元に記述しています。
それと作者が現役新聞記者ということもあってか、文章がかなり平易で読みやすいです。
軍事的な専門用語をできるだけ排除して、普通の人にも分かりやすくしようとしてます。
どのくらい文章から軍事用語を排除しているかと言うと、証言者達の当時の軍の階級すら書いていないくらい。
それでも充分に当時の情勢や技術的状況とかを判りやすく書いていて、非常に好感が持てる本かと。
(専門用語ばかり駆使して、一見さんへの配慮が全く欠けている本は軍事関係に限らず沢山ありますからねえ)巻末に本の元になった下記の3人のインタビュー記事が掲載されているのも、一次資料をきちんと公開していると言えますね。
・ヨアヒム・ヴォルフガング・ベーム(エルベ特別攻撃隊パイロット 生還者)
・ハヨ・ヘルマン(エルベ特別攻撃隊 立案及び計画実行者)
・エーリッヒ・クロイル(ベルリン戦時のオーデル川橋梁への体当たり攻撃隊パイロット 生還者)このインタビュー記事は一言一言が重くて、軍事知識のある人ほど「うわ〜」と思えるでしょう。
あと「体当たり攻撃」をそれほど特別視せずに、第一次大戦での体当たり攻撃とかソ連空軍の「タラーン攻撃」とかもきっちり解説してます。
日本のカミカゼ攻撃についての本は、そこらへんを特別視しすぎているのが多いので、かなり好感持てたり。
読んでて、いくつか思ったこと。
・ハヨ・ヘルマンって変な名前だと思ってましたが、本当は「ハンス・ヨアヒム・ヘルマン」だったのが短くなったのですね。
・ハヨ・ヘルマンの現在の写真載ってますが、とても95歳に見えない若々しさです。
60歳前でも充分に通ります。・ハヨ・ヘルマンって本人の証言では、スペイン内戦時のコンドル軍団第一陣。
それって本当にドイツ空軍初期からの中核要員じゃないですか。
陸軍で歩兵訓練やっている時にゲーリング本人に空軍に引き抜かれた経歴もあるので、正にゲーリングの子飼い将校。・ハヨ・ヘルマンは爆撃機パイロットとして輸送船撃沈11隻というスコアを持ってますが、それを実現した方法が、
「1941年のギリシア戦時に夜間機雷散布を命じられた時、命令違反して250キロ爆弾をおまけに積んで、機雷散布が終わった後に輸送船攻撃を行って1隻撃沈したら、その輸送船が大量の弾薬積んでたので周りの10隻も一緒に誘爆して吹き飛んだ。
大戦果を挙げたので命令違反は不問」という、それ何てラノベ? な世界。
・ハヨ・ヘルマン大佐は体当たり攻撃を立案する際に、日本大使の大島に日本の神風攻撃について何回も話を聞きに言っていますが、ハヨ・ヘルマン大佐が感じた大島大使への印象は「酒が強い」。
・エルベ特別攻撃隊の訓練体系は、午前中が飛行機操縦に関する座学で、午後が政治教育。
・エルベ特別攻撃隊の訓練宿舎には、沢山の肉や本物のコーヒー、フランスの酒など食料は沢山あったが、燃料不足のため肝心の飛行訓練は全く出来ず(地上滑走も不可)、出撃まで訓練は座学オンリー。
・エルベ特別攻撃隊の出撃時には、ドイツ空軍の戦闘無線周波数で勇壮なマーチが流されてたので、それを傍受していたアメリカ空軍も不思議がった。・オーデル川のソ連軍橋梁への体当たり攻撃時に、体当たり攻撃隊の護衛についていたのはMe262ジェット戦闘機。
Me262は末期ドイツ軍にとって本当に重要な戦闘にしか投入されないので、この作戦がかなり気合いの入ったものであることが判ります。
エルベ特別攻撃隊の戦闘もMe262との連携戦闘ですし。
とにかく良い本であることは確かです。
軍事が判らない人にもちゃんと理解できるように平易に書かれてますし、かと言って情報量が少ないわけでもありません。
お薦め。
http://muraji-zare.blog.so-net.ne.jp/2009-01-24-1