新脱亜論

       

新脱亜論 (文春新書)

新脱亜論 (文春新書)

      
拓殖大学の学長が書いた本。
日本の転機を米国による計画的な日英同盟からの引き剥がしにあり、そのメルクマールがワシントン軍縮条約という指摘はするどい。
次代の覇権国家が旧覇権国家の藩屏を掘り崩そうという戦略は自然である。
米国の日本攻略は英国攻略の一部として行われた。
現代に敷延すれば中国は必ず日米離反を狙ってくると言うことである。
従米は許せないが、かといって幼稚な反米は敵の思う壺であることを肝に銘ずるべきであろう。
     

しかし、日本を担う時代の日本人が果たして中国や朝鮮半島による冷遇や屈辱にどこまで耐えられるだろうかという恐れは強い。想像したくはないが、北朝鮮の日本に対する核攻撃といった急迫の事態に直面した場合、次代の日本人が一挙に排外主義へと転じ、国際社会の反対を押し切って軍事大国化へと歩を進め、核保有国たるを選択する可能性はありうる。
国際社会の不条理で複雑きわまりない情勢を怜悧に分析したうえでの軍事大国化であり、核保有であれば、これは一つの採用してしかるべき戦略であろうが、周辺諸国の挑発に乗って深い思慮を重ねることもなくなされる情念の「政治化」は危うい。現在の日本の外交は友好と善隣を目的として相手国との間に波風を立てたくはないというただの安直に過ぎない。公正と正義に違背する安易なアジア外交をつづける以上、一旦緩急あらば荒々しい選択が国民によってなされないと誰が保障できようか。
[p300-301]