ETV特集『裁かれなかった毒ガス戦』
2007年09月02日22:00-23:30教育TV
ETV特集とNHKスペシャルとなにが違うのか?ようするに3チャンネルでやるNHK特集ってことだな。教育テレビというのは例の『女性国際裁判』ってのをやったように左派の巣窟なんだが、今回の特集も「反日親中」番組ではあった。中国側の理不尽な要求に国会で慎重論が出ている化学兵器処理事業について中国にエールを送るような内容だ。しかし、思惑はともあれ良質なドキュメンタリーだった。腐ってもNHKだね。
ただちょっとこれはアンフェアだろうと思えるいくつかの誤魔化し?というか微妙なすり替えが気になった。
・日本軍は支那戦線で毒ガスを使った。
・米国の一人の調査官は東京裁判で毒ガス戦を戦争犯罪として訴追するつもりだった。
・しかし米国は自国の化学戦に制約をかけられるのを嫌ってこの件を訴追しなかった。
・その後化学兵器は国際的に禁止された。
・本来裁かれるべき日本軍による非人道行為が裁かれなかった!せめて中国での遺棄化学兵器処理事業で罪滅ぼしせよ!
という流れなのだが・・・
・まず、日本軍が化学兵器を使ったことが非難されるべき犯罪と最初から措定されているが、これはおかしい。なぜなら第二次世界大戦時、日本とアメリカは毒ガス禁止の国際条約(ジュネーブ条約)を批准していなかった。したがって東京裁判では条約違反で訴追することは出来ない。これは化学兵器が非人道的かどうかとは別の問題である。(因みに原爆も原爆禁止条約がなかったから米国を裁けるかと言う問題と似ている。もちろん原爆であることを理由に批判できない。そういう条約はなかったのだから。しかし民間人虐殺という意味で裁ける。化学兵器もこちらで考えるべきだろう)
・結局米国は日本軍を民間人虐殺という文脈で批判しようとしたのだが、それなら敢えてこの件を扱わなくても他に事例を集められる。そこで敢えて米軍の行動の制約になるような化学戦については取り上げない方がよい。と考えたのだろう。
・「ジュネーブ条約未批准」をはっきり指摘したのはNHKの良心だと思う。ただし、その後、国際条約を批准したかどうかに関わりなく「残虐な兵器」を使うことは戦争犯罪であり、この考え方は戦後に化学兵器禁止条約に結実した、だから、やっぱり化学兵器は(・A・)イクナイ!!とすべきだった・・・という非難の正当化は、先日のパール判事の東京裁判論と同じ論理構成だが、かなり強引だ。事後法の遡及適用は不当だが、理念は正しいので訴追は正しい。などと、まるで筋のとおらないことを言っている。
・また、細かい点でもいいわけがましいことがある。日本軍が使用したのは基本的に催涙弾であり通常人は死なないことを認めているのに、閉塞的な状況では人が死ぬこともありうる、と強調して、中国人の村人が死んだのは毒ガスのせいだと示唆している。しかし毒ガス戦はもともと燻しだしたゲリラを掃討する作戦だから、逃げ出したところで撃たれて死んだ可能性のほうが高いのではないか?また、そもそもの問題として、この村が巻き添えになった被害者なのか、本当に共産ゲリラの戦略村だったのか、それによって意味も大きく変わるのだが番組では触れられていない。まぁ、老人子供については言い訳できない気もするけど。
・さらに、日本軍は敗戦時に毒ガスを遺棄したというのも事実だが、それ以外にソ連軍や国民党軍に引き渡した分もあることにまったく触れないのは現在の遺棄化学兵器問題を考える上ではアンフェアだろう。
・そもそもまた、NHKは埋められた毒ガスで現在も中国人に被害が出ていることを非難しているが、日本だけが非難を浴びるべきなのかな?日本でも昔は米軍の落とした不発弾を掘り当てて被害者がでていたけど、米国に処理させたりはしなかった。普通は講和が済んだ後ではそういうのは自国政府の責任だ。毒ガスの被害者に補償がなされないことは一義的には中国政府が非難されるべきなんじゃないか?(韓国被爆者とかも同じパターンだな)