日本の敗戦は天佑神助だった

   
ブックレビュー
●日本の敗戦は天佑神助だった 評者:東京外国語大学講師 宮脇淳子   

もし、日本が中国に勝っていたら (文春新書)

もし、日本が中国に勝っていたら (文春新書)

            

中国の「反日」は国家的政策で、反日を唱えている限り安全なので、ネット上には目を覆いたくなるような暴言が飛び交っている。インターネットが出来るのは都市の知識層かつ特権階級だけで、彼らのストレス発散とわかっていても、日本人としては実に不愉快である。
中国の知識人でもっと現実的な人はいないのかしらと思っていたら、本書が刊行された。「趙無眠」はもちろんペンネームで、本書は中国のインターネット上で公開され、大論争を巻き起こした論文であるという。
内容は、常識的な日本人ならすでに知っている歴史的事実、日本は現実には連合軍に投降したに過ぎず、中国だけでは抗日戦争に勝利した可能性はほとんどなかったこと、多くの日本人が中国革命を助けたこと、日本は学習熱心な国で、近代日本が中国の恩師であったこと、旧満州国など日本の統治下で近代化に成功したことなどを述べる。
こういった内容のために、著者は中国の民族主義者から「漢奸」と呼ばれることになったわけだが、これが決して親日家の書いた日本弁護の本でないところが、一読を薦める理由である。
抗日戦の最中、日本軍より中国軍の方が民衆に酷薄であった。中国の民衆にとっては、どちらも官軍になりうる存在だった。もし日本人が中国に溶け込む時間が十分にあれば、かっての満州人、モンゴル人などの外部民族と同様、日本が中国に加わる結果となっただろう。
一旦日本が加わったら、その後はどんな方法を使っても中国から離脱できない。つまり、日本が中国を征服して統一することは、中国が日本を征服して統一することと全く同じ結果になった、と著者は言う。
この意見に私も同意する。米国のお蔭で中国から手を引けたことこそ天佑神助であった。
[週間東洋経済2007/4/21特大号 131P]