ある中年夫婦の敗戦

太陽 [DVD]

太陽 [DVD]

アレクサンドル・ソクーロフの歴史人物3部作(まだ続く?)の最新作。歴史的人物としての天皇を描く。僕はこういう映画が大好きだ。映画もまた思索であるのだから現代史の人物を取り上げてもおかしくはないと思うのだが、評価の定まっていない議論の対象となると観客の目は格段に厳しくなる。監督が馬鹿だと映像はごまかしが利かない。(だからこそ挑み甲斐があるとも思うのだが。)
ところで敗戦の時、天皇陛下は44歳、皇后陛下は42歳だ。今の僕とそれほど隔絶した年齢ではない。一つの政府だけではなく、一つの国家、一つの民族、一つの歴史の滅亡の縁に責任者として立たされるというのはどのような気分なのだろうか?

注意:既にご覧の方も多いかと思いますが、敢えてスポーツ報知インタビュー記事の一部抜粋を以下に記します。

―役の影響を考えたのは?
「ロシアに渡り、マッカーサーとの対面シーンのリハーサルをやりました。天皇陛下が『原爆を落としたのはお前たちだろう?』と英語で問う場面があり、天皇の映画を撮るというのはこういうことなんだ、と実感が出てきました。帰国後、いろんな人から“妨害がある”とか“消されちゃうよ”とか言われ、初めて恐怖を感じました。」

―役を降りようとは?
「事務所のスタッフと相談しましたが、起こるかどうか分からないことを悩むのはどうかと考えました。僕個人のことと、仕事のことは分けて考え、むしろ、この仕事に誇りを持って、全力で臨もうと考えました。実際、脅迫はありませんでした。」

―役作りは?
「本や写真集は読みましたが、あまり役立たなかった。衣装を着て、防空壕のセット内に入り、息苦しさを感じた。人間としての当たり前の反応を感じながら、演じていきました。」

防空壕のセットは監督の想像なのですか?
「いえ、実際に資料が残っているそうで、監督は写真も見せてくれました。御前会議も事実に基づいています。監督は相当、下調べをしていました。」

―一方、史実と違うという指摘もあります。
「ええ、(終戦間際の御前会議で)昭和天皇明治天皇の歌を朗読する場面がありますが、実際は開戦のときに読まれました。この映画はこれまで誰も知らなかったこと、記録になかったことを、監督が芸術家として想像をはせて描いたもの。僕自身も天皇陛下をチャーミングな方に見せたいと思い、演じました。」

―口を動かしたり、「あ、そう」との口ぐせをまねていますが。
「口については監督からは開けていてほしい、という指示だけはありました。天皇陛下は常に周囲からは見られている存在です。まゆを上げたり、下げたりすれば、意味が出てしまう。なるべく、表情に感情を出さないように過ごされていたと思います。それが口に出たのではないか、と指摘された外国のプレスの方もいました。まねというつもりはありません。」

―演じきり、昭和天皇という方をどう思いましたか?
「劇中で陛下は自分を神とあがめることを否定します。一人の人間が『自分は人間である』と宣言する。なんて悲しい、なんてナンセンスなんだ、と思いました。これを世界中で唯一、背負わされた人間が昭和天皇。あの大変な時期に、権力の頂点に立たれた。これは想像を絶することです。」

―会見では「見ていない人と同じ土俵に立ちたくない」と話しました。
「言いたかったのは、とにかく見てほしい、ということ。見ていただかないことには、映画の意図することは何も伝わらない。日本公開は難しそうですが、正直、理解できません。今後、海外の映画館や映画祭では上映されるので、日本の方も見てほしいです。」
(スポーツ報知 聞き手・平辻哲也)

■Solnze(英題:The Sun):太陽
●Directer&Screenwriter:Aleksandr Sokurov アレクサンドル・ソクーロフ
●Cast:
 Issei Ogata イッセイ尾形 
 Shiro Sano 佐野史郎 
 Kaori Momoi 桃井かおり 
 Robert Dawson ロバート・ドーソン
★追加:第13回サンクトペテルブルク映画祭グランプリ受賞(6月29日)
URL:http://tuboyaki.ameblo.jp/entry-b8b807252831e6bc2b30e92c2a42e742.html