「気鋭の論点」
医療保険の拡大は医療費を増加させるのか?
国民皆保険の一方で医療費を抑える日本に世界が注目
近藤絢子
2011年10月24日(月)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111004/223001/?mlt
(略)
 このように、医療保険の拡大は少なくとも短期的には医療費を増加させる。日本の1961年の国民皆保険の導入の事例も例外ではないのだが、国全体の数字をみると、日本の医療費はかなり低い水準に抑えられてきた。図1に示したように、日本の国民医療費の対GDP国内総生産)比は、英国と同水準で、米国、フランス、ドイツよりも低い。OECD経済協力開発機構)諸国の中でも飛びぬけて高い米国はともかく、フランスやドイツと比べても2%ほどの開きがある。
 
 それと同時に、日本は平均余命の急速な伸びを達成した。図2に示すように、日本の平均余命は1960年時点では5カ国中で最下位だったにもかかわらず、1970年代以降は一貫して最上位であり、今も伸び続けている。出生時の平均余命83歳は、世界でもトップクラスである。


 このように日本は、医療費の伸びは比較的抑制しながら、皆保険の達成と平均余命の大幅な伸びの両方を実現してきた。すでに述べたように、皆保険の達成そのものは医療費を増やす効果があったはずであり、それにもかかわらず国民医療費が抑制されてきたのは、診療報酬規制などほかの政策の効果であろうと考えられる。

 ちょうど今年が国民皆保険50周年ということもあり、有名な医学雑誌の「The Lancet」が特集を組むなど、日本の医療制度は今、国際的な注目を集めている。その一方で、日本でも近年になって、あまりに急速な高齢化や、雇用状況の悪化による保険料未納者の増加などの問題が顕在化しつつある。
 
 日本の国民皆保険とその後の医療制度の運営方法は、これから国民皆保険を導入する国々にとっての先行事例となるだけでなく、今後の我が国自身の医療制度改革についても貴重なヒントをあたえてくれるにちがいない。