高橋洋一の俗論を撃つ!
【第22回】 2011年9月22日
高橋洋一
増税ムードを作りたい野田政権の姑息な手口
http://diamond.jp/articles/-/14112
(略)
 それと、枝野氏とあるテレビ番組で議論したことがあるが、その際、ちょっと信じられないような発言があった。それは、枝野氏が「金利を上げると経済成長する」といったのだ。

 それは絶対あり得ないから、訂正したほうがいいといったが、まったく受け付けなかった。借り手または金融仲介する金融機関から所得を資金の出し手に移転すれば、経済は成長するというロジックらしい。

 金利の上げ下げは、資金の出し手と借りての間の所得移転だ。しかし、リスクをかけて借金してまでも事業を行おうとする借り手のほうが、資金の出し手より経済成長のためには必要だ。だから金利を上げると経済は萎縮する。こうした趣旨のことをテレビ番組で話した。

 その枝野氏が経産相になったのだから、経済成長を目指してもらいたいと思っていたが、就任時にとんでもない発言をしていた。報道によれば、枝野氏は、「『人口が減少する日本は、大きな経済成長はしない』というのが私の持論だが、それでよろしいか」と就任に条件を付けたが、野田総理は「それで結構だ」と応じた。
(略)
 実は、経済成長しないというのは、増税したい人にとって好都合だ。8月25日付けの本コラム(第20回)で示したように、経済成長とりわけ名目経済成長率が高まると財政再建は自ずとできてしまうので、増税を言い出す根拠がなくなるのだ。こう考えると、野田総理が「それで結構だ」と応じたのは、渡りに船であり、だから、あえてその経緯を記者たちに話すのだ。

 増税作戦の総司令部である財務省からも、増税やむなしのメッセージが出されている。

 五十嵐文彦財務副大臣は18日、テレビ番組に出演し、国と地方の借金総額が、国内の家計金融純資産額を初めて上回る可能性があるとの見通しを示した。この種の論法は、民間金融機関系シンクタンクでも、しばしば日本の財政状況が悪いことを表す証拠としても示されている。

 五十嵐財務副大臣は、国と地方の借金総額が国内の家計金融純資産額を上回っても、企業や海外部門があるので直ちに問題とはならないといっていたが、肝心なことでデータのすり替えがある。

 こうした統計数字の話について、マスコミはからっきし弱い。18日のテレビ番組に出ていたマスコミのコメンテーターも、なるほど言った顔つきであり、データのすり替えをまったく指摘できなかった。

 家計金融純資産額は、日銀が発表している資金循環勘定のストックから持ってきている。この資金循環勘定は各経済主体のバランスシートを推計しているのだが、家計金融純資産額は家計部門の金融資産と金融負債の差額になっている。一方、国と地方の借金総額は財務省のデータであり、国と地方の有している金融資産は差し引かれていない。
 つまり、家計金融純資産額が家計バランスシートのネットの数字であるのに対して、国と地方の借金総額は政府のバランスシートの負債だけのグロスの数字だ。基準の違うネットの数字とグロスの数字を比較しても意味がない。それにもかかわらず、五十嵐財務副大臣財政再建の必要性を強調しており、これはかなりミスリーディングだ。

 ちなみに、日銀の資金循環勘定では一般政府のバランスシートもあり、そこでは家計部門と同様に、ネットの数字である金融資産負債差額が計上されている。五十嵐財務副大臣がテレビで紹介した図の上に、一般政府の金融資産負債差額を重ねたものが図3だ。まだまだ、余裕があることが一目瞭然である。


 今、新聞各紙は増税一色である。そのためにいろいろな数字が出されているが、怪しいモノも少なくない。国民は正しい情報のもとに判断する必要があるが、原発事故と同様に、増税論議でも政府から出される資料は、信頼できるかどうか怪しいということを頭に入れておくべきだ。