変貌する横浜中華街

「中華街」というのは実質的に租界なんだな

日本のなかの外国を歩く
新華僑に圧倒される老華僑 変貌する横浜中華街
2011年09月08日(Thu) 
田中健
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1483
(略)
 「現在、中華街で新規店を次々と出している新華僑は3つのグループがある。それらの勢力はいずれも残留孤児の関係者だということになっているが、なぜか残留孤児が多い中国東北地方の出身者ではなく、みな福建省の出身者人ばかりだ」。祖父の代から中華街にいる老華僑はいう。

 路上で、「甘栗売り」、「食べ放題」の客引きをしている中国人に声をかけてみると、ほとんどが福建省福清市の出身者で占められていることがわかる。彼らは一様に留学生だと称しているが、毎日路上で客引きに専念している彼らがいつ学校へ行っているのか実に不思議である。もし彼らが留学生でないとすれば、一体、在留資格はどうなっているのか甚だ疑問が残る。

 そもそも福建省は古くから華僑を多く排出している土地柄だが、なかでも福清市は密航の斡旋をする「蛇頭」組織が複数存在する拠点となっている。福清市出身の中国女性は来日するために偽装結婚という手段を用いることも多いく、入国管理局も警戒している。

 中華街の近くにある横浜きっての歓楽街・福富町は、蛇頭の斡旋で不法入国した中国人が多いと言われている。警察関係者は、その福富町と中華街のつながりの深さを指摘する。警察や入管が密航事件で容疑者を追い詰めても、中華街に逃げ込まれると、その足取りがぷっつりと切れてしまうという。「不法入国者がいったん、中華街に潜り込んでしまったら、不法滞在などで摘発するのが難しい」

 さらに、大手中華料理店のマネージャーは、「中華料理のコックの免許を中国地方政府から買い取り、料理もできない中国人をコックに偽装し技能をもつとして日本の在留資格を獲得させ、来日するや中華街に派遣して働かせる組織もある」と打ち明ける。中華街の中には、偽コックの来日に必要な雇用契約書などの必要書類を20万円ほどで密航ブローカーに売り、さらに彼らの来日の手数料として80万円ほど蛇頭組織から受取っている新華僑の料理店まであるのだという。

 これらの費用は、偽コックたちが借金する形で支払われる。彼らはその借金に利息を加えた額を返済し終えるまで、ただ働きに近い状態で働き続けなくてはならないのである。
 このように偽コックを受け入れる中華料理店にとっては、書類料と手数料の合計約100万円が懐に入る上に、コックがただ同然の人件費で働いてくれるという形になる。激安ブームに沸く中華街では、人件費削減は、強力な武器なのである。

 「実際、中国の地方政府機関から発行された『一級厨師(コック)』の免許を持ち、招聘した中華料理店で働いていれば、そのコックや料理店を摘発することは不可能に近い」と警察関係者は嘆いている。

新華僑のマネーの出所は
 
 この中華街のビジネスに参入するには、数億円の権利金や数千万円の内装費などが必要となる。ところが、ほとんどの新華僑は、その開店資金を金融機関の融資に頼ることはない。現金一括で支払うのだそうだ。どうやって巨額の資金を調達するのか。その出所について老華僑たちは、「腐敗した地方政府官僚が、賄賂などで不法に得た巨額な金をマネーロンダリングするために中華街に店を作った」とか、「中国本土のねずみ講的組織が集めた金を投資した」などと噂するが、定かなことは不明である。だが、巨額な金が、中華街の新華僑の間で日常的に飛び交っていることは確かなようだ。

 配膳の仕事をしながら地元の中華学校に子供を通わせている老華僑の主婦は、「子供の同級生のあいだでも、福建省から来たという子が増えている。その母親のなかには、特別仕事もしていないのに、ブランド品で身を固め、使い切れない程の金を持ち歩いている人も少なくない」と言う。

 7月末に筆者は、世界中に散らばる華僑の故郷とも言われる広東省に出張する機会があった。そこで、親戚が横浜中華街でコックとして働いているという男性と知り合った。この男性は不動産で大儲けをしたという事業家なのだが、こんなことを話してくれた。「数億円で横浜中華街に店が出せるのだったら安いものだ。日本で店を持つことは中国ではステータスだし、中国で政変など何かが起きれば、そのまま日本へ行くこともできる」

 横浜中華街は中国国内から流れ込む大量のチャイナ・マネーによって支配されようとしている。それは、伝統を築いてきたこの街全体を一変しかねない巨大な影響力をもたらそうとしている。