【大機小機】無垢じゃない無垢

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【大機小機】日本の衰退をどう食い止めるか
(日経、11年08月30日)
 
 戦後最大の危機のなかで野田佳彦首相が登場する。東日本大震災からの復興、原発事故の収束が緊急課題だが、世界が連鎖的な債務危機に見舞われるなかで、どう成長と財政健全化を両立するか重い宿題を背負っている。
 
 「成長なしに財政再建なく、財政再建なしに成長なし」と野田氏はいうが、口でいうほど簡単ではない。人口減少社会に足を踏み入れた日本で新たな成長をめざすにはグローバルな視野が欠かせない。まず世界で最高水準の法人税率は思い切って引き下げるしかない。放射性物質への不安や割高な電気料金に加え高い法人税では、日本企業の海外シフトは避けられず外資誘致も難しい。法人税を復興財源としてあてにするようでは成長戦略も揺らぐ。
 
 環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は必須である。合わせて日中韓自由貿易協定(FTA)をめざすべきだ。FTAの大幅な出遅れで、日本企業は韓国などに国際競争力上、不利になっている。東日本大震災をおもんぱかって尻込みするのではなく、農業改革と合わせて、自由貿易圏作りを急ぐときである。
 
 財政健全化は待ったなしである。日本の累積債務は債務危機にあるギリシャを上回り先進国最悪だ。日本国債が格下げされても、ほとんど危機感がみられない。マニフェスト政権公約)の見直しは当然であり、ばらまき色の濃いマニフェストこそ事業仕分けの対象にすべきだ。
 
 社会保障制度改革のための消費税率引き上げは避けられず、選挙など政治日程を理由に先送りを繰り返すゆとりはない。高齢化で貯蓄率が低下するなかで、いつまでも日本国債が国内消化される保証はない。税制をめぐって政治が混乱すれば、市場の審判を受ける。国債バブルが崩壊すれば、財政危機は一挙に深刻化する。それは日本国債を大量に抱える金融機関の危機に直結する。手をこまぬけば、国際通貨基金IMF)管理という事態も考えられる。
 
 市場介入や金融緩和で円高防止に立ち上がる必要はあるが、ドル安、ユーロ安は世界経済の歴史的転換のなかで起きている。この国際通貨の空位時代にどう協調体制を築くか日本の構想力が問われる。
 
 「失われた20年」で15人目の首相となる野田氏は、日本の衰退を食い止める歴史的責務を担う。財務省の発想を超えた大戦略と政治指導力が求められている。
 
(無垢)