今日もロイターは平常運転

そんなに日本がデフレ脱却するのがイヤなのかね?
欧州にカネが廻ってこなくなるから?

インタビュー:復興債の日銀引き受け、インフレ招く可能性=福田・東大教授
2011年 07月 15日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-22228020110715?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0
 [東京 15日 ロイター] 福田慎一・東京大学大学院教授(専門:金融論、マクロ経済学、国際金融)は15日、ロイターとのインビューで、復興国債の財源として日銀による国債直接引き受けを行うことは、将来的なインフレを招き、その際には急激な引き締めという痛みが伴う可能性が高いと指摘した。

 また日銀が100兆円規模の国債をすでに保有している状況で、追加的に10兆円程度の国債保有しても景気浮揚効果はすぐには期待できないとも述べた。一方で増税による財源確保は、経済への悪影響が予見可能であり、その対処も含めて政策として道筋が立てやすいとした。

 より重要な問題として、復興財源として10兆円単位の日銀引き受けは1000兆円規模の日本の公的債務から見れば小さな金額であり、復興財源よりはるかに大きい借金を背負っている中で、全体のバランスとして財政あるいは日銀の行動を考えるべきだとの考えを示した。

 日銀の役割として、デフレが10年以上続く中で、現在の日銀が掲げている望ましい物価水準は低すぎるとし、もう少しインフレ許容度を高めるべきと注文をつけた。 

  <日銀引き受けによる影響は予見不能> 

 福田教授は復興国債の財源として、増税でも日銀引き受けでも、どちらも痛みを伴うことは同じと指摘。ただどちらも当面はそれが見えにくいと説明。それでも将来の影響が予見可能な増税の方が対処方法も検討できることから、痛みを最小限に抑えることができるとした。 

 財源を増税に求める場合、当面は公債発行でまかなうため、経済への影響は出ないが、将来の増税の痛みが出てくる。ただし、「どういうマイナス効果がでるのかわかっているので、経済政策として道筋をつけて実行しやすい。増税のタイミングをどうするかは課題だが、経済学で言われているのは、一気に増税するのではなく、徐々に引き上げていくということ。それさえ気をつければコストは最小限にとどめることができる。政策としてはこちらが常道だ」とした。 

 一方で日銀の国債直接引き受けの場合にも、「現在は流動性のわなに陥っているために、資金供給してもすぐに日本経済に影響は出てこないため、当面痛みはわかりにくい」としながらも「流動性のわなが終わるときにインフレが生じる。そうなった場合には、大量の資金を放置できなくなり、急激に資金を吸収する必要がでてきて、その際に金利上昇のコストもかかってくる」と指摘した。

 さらに日銀引き受けの場合には、「その影響も含めてよくわからないことが多く、採用には慎重になるべき」だと指摘。「この10年、日銀は海図なき航海を続けており、手探りで緩和を行ってきた経緯がある。うまくいったもの、うまくいかなかったものがあり、今となっては反省点もある」という状況の中で、日銀引き受けが必ずしてもインフレをもたらすとは言い切れないものの、不確実性が高く、場合によってはコストが大きい帰結をもたらすというのが過去の歴史からの教訓だと慎重な考えを示した。

  <復興財源よりも巨額の公的債務の方が問題> 

 福田教授はまた、深刻な日本の財政状況のもとで、復興財源だけが議論になっていること自体に疑問を呈した。「国・地方合わせて公的負債の残高は1000兆円を超えており、そのこと自体がより深刻な問題」と指摘。「それに比べて、10兆円単位の日銀引き受けがどの程度の問題になるのか。すでに日銀は100兆円規模の長期国債保有している。復興財源よりはるかに大きい借金を背負っている中で、全体のバランスとして財政とか日銀の行動を考えるべき」と述べた。

 その上で、これ以上の財政拡大に懸念を示した。「中央銀行は目先の利益で行動してはいけないという大原則がある。政権が不安定化してくると、政府は目先の景気をよくする政策に傾きがちになる。そういう中で、中央銀の国債引き受けも行われハイパーインフレになった経緯がある」と指摘。「10年以上デフレが続いていて、なかなかデフレを脱却できないという中、ひとつの起爆剤を日銀に求める人もいるが、日銀が引き受けによりこれ以上の国債保有を増やすのは効果が限定的な割にはリスクが大きすぎる」と述べた。 

  <今回の円高に金融政策での対応は無理> 

 欧州での財政問題の広がりや米国景気への不安をきっかけに円高が進んでいるが、デフレが円高を招いているとの見方から金融緩和の必要性を主張する意見もある。しかし福田教授は、「為替変動にとって重要なのは金利差。日本は金利がゼロにはりつき、長期金利も低いので動かしづらい。相手国の金利が上下してそれにあわせて為替が動いているのが現状で、日本の政策でなかなか円安誘導はしにくい」として今回のように海外要因による円高に対し、金融政策での対応は無理があると指摘する。

 ベースマネーを増やして円安誘導に成功した事例として過去における量的緩和時代に円キャリートレードが誘発され円安誘導できた面があった。「円キャリートレードを再び起こせば円安誘導はある程度できるかもしれないが、それをしたことで当時どれだけ良いことがあったか。若干円安に振れたという意味ではよかったが、副作用もそれなりにあった」との見方を示した。 

  <日銀はもっとデフレファイター的スタンスを> 

 日本経済が10年以上デフレに悩まされている現状について、福田教授はマネーの循環に問題があると指摘。 

 「現在の金融市場ではマネーの回り方にかなり問題がある。1400兆円の個人金融資産の半分以上が銀行預金となり、かつては貸出から設備投資に回り経済が成長してく仕組みだったが、現在は、貸出に回らず国債の購入に回っている。国債購入でまかなったお金はさほど生産的ではない使われ方をするために成長に結びつきにくい」と説明。この悪循環を断ち切り生産性の高い分野にマネーを回す仕組み作りに力を入れるべきとした。

 ただ一方で、デフレに対する日銀の姿勢にも注文を付けた。望ましい物価水準として日銀が公表している「物価安定の理解」では消費者物価0─2%、中心は1%としているが、福田教授はこれは「先進国では最低水準。日銀は物価を許容する度合いをもう少し持っても良い」として、デフレファイター的なスタンスがやや足りないと指摘した。  

(ロイターニュース 中川泉、木原麗花;編集 宮崎亜巳)