働く障碍者


こんな会社があることも、こんな歴史があることも、そんな人がいたことも全然知らなかった。
こういう無名の個人の発奮が時代を先導するのかもしれないなあ。
「特権」と「差別」は裏表。自分で稼ぐからどう使おうが自由。もちろん風俗だって!
そうして消費や生活を満喫する障碍者が増えてゆくことが、「あるべき善良で可哀相な障碍者像」からの解放をもたらすのだろう。
 

記者の眼
「もう“特例”とは言わせない」
大分県障害者雇用の挑戦
北爪匡
2011年7月12日(火)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20110707/221353/?P=1
(略)
 今からちょうど30年前の1981年に創業して以来、ホンダ太陽は自動車やバイクのメーターなど電装品類を生産。ホンダや系列の大手部品メーカー向けの下請けとして業容を拡大し続け、現在は別府周辺に3工場を抱える。
 
 この部品企業の掲げる目標、それは「品質でホンダグループ内ナンバーワンを目指す」こと。一見、ありふれた目標のようにも思えるが、背後には並々ならぬ覚悟がある。
 
 同社のように、全従業員の2割以上が障害者で、親会社が議決権ベースの株式の過半数保有するなどの条件を満たした企業を「特例子会社」と呼ぶ。厚生労働省によって「障害者の雇用に特別に配慮した子会社」と定義され、助成金を受け取ることが可能だ。
 
 CSR(企業の社会的責任)の観点、さらには障害者雇用促進法の改正によって、こうした特例子会社の設立や、企業内における障害者雇用が増加していることは間違いない。社会倫理、そして制度の面で障害者を保護し、就業機会を促進しているためだ。
 
 しかし、これは親会社側の論理であり、当事者にとっては違ったものとして映る。ホンダ太陽の西田晴泰社長は従業員の立場を代弁するように言う。
 
「障害があることが特権であってはいけない。いつまでも“特例”と呼ばれているわけにはいかない」
(略)
 「特別扱いされたくない」――。こうした別府周辺の特例子会社の強い意志は、その歴史に裏打ちされたものだ。故・中村裕博士。1人の外科医が日本の障害者雇用の礎を築いた。
 
 1960年、別府市内の病院の外科医だった中村氏は、脊椎や頸椎を損傷した患者の治療法を学ぶため、英国に留学した。
 
 第二次世界大戦中、ノルマンディー上陸作戦によって大量の戦傷者が出ることを予測した時の英国首相チャーチルは、その道の第一人者だったユダヤ人医師、ルートヴィッヒ・グッドマン氏にリハビリ治療を一任する。
 
 半年で9割の患者が社会復帰できるという、グッドマン氏の治療法を目の当たりにした中村氏は衝撃を受けたという。日本では寝たきりで死期を待つだけだった半身不随の障害者たちが、バスケットボールを楽しんでいる。スポーツを取り入れた、当時としては先端のリハビリ治療だった。
 
 中村氏はこれを日本に持ち帰り、周囲の反対を押し切りながら、リハビリを成功させていく。そしてついには1964年の東京オリンピックと同時開催された第2回パラリンピックに自らの患者を出場させ、上位入賞を果たした。
 
 しかし、ここで1つの問題が明るみになった。プロスポーツ選手として収入を得ている他国の選手が、試合後に夜の街に繰り出す傍ら、収入のない日本人選手たちはそれがままならない。そればかりか、国からのお達しで、「障害者が夜の街を外出してはならない。かならず警備をつけるように」との差別的な待遇を受ける。
 
 中村氏の目標は、リハビリによる治療から、障害者の社会的、経済的独立へと変わった。「障害者に保護よりも、機会を」。こう訴え、中村氏は私財を投じて社会福祉法人「太陽の家」を設立した。
 
 当時、交通事故や労災事故が多かった日本には、脊椎損傷による半身不随など身体障害者が多かった。中村氏は全国の患者を受け入れ、働く機会を太陽の家で提供した。中村氏の長男で、太陽の家の現在の理事長である中村太郎氏は「当時はここしか身体障害者が働く場所などなかった」と説明する。
 
 こうした考えに同調したのが、オムロンの立石一真氏、ソニー井深大氏、ホンダの本田宗一郎氏といった、戦後日本を代表する経営者たちだった。それぞれ、太陽の家との共同出資で、特例子会社を設立し、別府市周辺に日本の障害者雇用の基盤が出来上がった。
 
 自治体もそれを支援し続け、身体障害者の雇用率では大分県は全国トップを守り続けている。同県福祉保健部の岡正美・審議監は「商業ベースで競争力のある人材が一般企業で働くにはどうするか、県としても考え、バックアップしていく」と話す。
 
 中村氏は生涯をベッドの上で過ごしていた身体障害者を社会復帰させ、独立への道筋を示した。そこから本当の意味での自立を果たす。それが現在の障害者雇用における大きなテーマだ。
(略)