日本人技術者は何をしゃべったか

外国企業に簡単にノウハウを売り渡す日本人技術者をみていると、漏れは先の大戦での日本兵捕虜を思い出す。
彼らは組織の空気に同調して戦っていたので、個人として国益を考え行動することができなかった。。。
 

日本兵捕虜は何をしゃべったか (文春新書)

日本兵捕虜は何をしゃべったか (文春新書)

 

海外ビジネス遭難防止ガイド
【第6回(最終回)】 2011年6月9日

白藤香
http://diamond.jp/articles/-/12624
グローバル競争は「知恵抜き」競争
 1990年頃から海外の製造業の現場では、日本企業からの「知恵抜き」が盛んに行われてきました。
 
 それから20年が経った現在、日本企業はグローバルでの激しい市場競争に身をさらされています。かつて世界のトップの座にいた電機業界は青息吐息で、自動車業界も海外市場で告発され、アジア勢から猛追されています。
 
 これは自由競争の中でそうなったのではなくて、海外から仕掛けられてきた「知恵抜き」の結果だったのです。
 
 日本はグローバル化の加速によって、海外からあの手この手で戦略攻撃を受けてきたのです。そのことに未だに気づいていない日本人が多すぎます。
 
 なぜ「知恵を抜いてやろう」という相手の目論見どおりになるのか、日本人の脇の甘さ、相手の狡猾さに気づかない警戒心のなさについて現場事例を交えながら、解説をしていきます。
(略)
「われわれは、日本と仕事をすると、勉強になることが多いんですよ。OEMをやるとどんどん成長できます」
 
「そうなんですか」
 
「製造ラインで、技術者からここが違うと指導を受けていると、そうかこういうふうにやるとよくなるのか、どんどんいろいろなことがわかるようになるんです。今度はそれを自分たちの製品に生かしてすぐつくるんです」
 
「……」
 
 OEM先との契約はどうなっているんだ!と思いながらも、日本人の「お人よし」を痛感させられました。
 
■止めようのない流れ
 
 90年代後半には為替差損で累積赤字が膨らみ、日本企業の収支はどんどん悪化していきました。その頃から、週末、海外企業でアルバイトをする日本人技術者が増えているという話をよく耳にするようになりました。
 
 ある企業の人事部は、その噂を突きとめようと成田空港で見張っていたところ、自社社員を発見して出国をとりやめさせました。当時どのくらいの技術者が週末、海外に出かけて行ったのかは定かでありませんが、実際に働いているという人に出会う機会がありました。
 
「俺も行ってたよ、先週」
 
 彼に悪びれた様子は全くありません。むしろ海外でも仕事ができることを自負しているようでした。
 
 その後、日本の電機業界は戦後初めて数万人という単位での大リストラを行いました。職を失った技術者の大半は、海外企業に転職することになります。彼らの頭の中にあった開発案件やノウハウは、転職先ですぐ利用され製品化、日本企業と競争することになります。
 
 「このまんまで、いいんですか」
 
 「企業としては、どうにもできない」
 
 日本企業の人事部の多くは半ばあきらめていました。

(にゃんこのコメント)
この人事部無責任過ぎるだろ、自社ノウハウを売り渡すのは立派に犯罪を構成するよ。だけどそんなことを問題にすればリストラが面倒くさくなる。結局保身が先にたつサラリーマンってだけの話。

(略)
 その状況が各社の収益性との関連で目に余る状態になり、また海外市場で日本企業の脅威になってきたため、政府の審議会に参加していたある有識者を通じて、経済産業省に訴えたことがありました。
 
「もう、止めようがないんじゃないでしょうか」
 
 力ない答えを聞かされました。果たしてそうだったのでしょうか。
 
米国政府が打ち出す、知財を国外へ持ち出す人々への対策に比べると、日本は脇が甘すぎたのです。

(にゃんこのコメント)
上に同じ。
結局保身が先にたつサラリーマン官僚ってだけの話。

「知恵抜き」を許してきた日本
■OEM先から逆に訴えられる
 
 引き抜きの次に来た「知恵抜き」は合弁という手法です。
 
 大陸(中国本土)では外資系企業は合弁会社でないと法人は設立できないという法律があり、日本企業にも必ず現地のパートナーが必要です。
 
 コストの安い大陸へ、また製造業の進出が始まりました。地方からは日本の金型業界の中小企業が進出し、知財を提供すると減税されるという政策もあり、どんどん進出していったことが新聞で報じられるようになりました。
 
 ですが、現在も生き残っているところはわずかです。業界で培った知恵は抜かれ、日本の職人が誇った伝統の手技は持ち出され、すっかり疲弊してしまいました。知財が持ち出された後、大陸では労賃のコスト高が起こり、日本のコスト面でのメリットは低下しました。
 
 さらに日本企業は自社工場を減らし、エコノミスト経営学者が海外のOEMを使ったほうが収益性が高まると論じたため、多くの日本の経営者を勇気づけ、自社工場はリストラされていきました。

(にゃんこのコメント)
エコノミスト経営学者」(笑) ついでにマスゴミもね(爆)

 
 「本当にこのままでいいのでしょうか」
 
 「契約があるから、大丈夫だよ」
 
 しかし、そんなことはありませんでした。
 
 90年頃の知恵抜きOEMの時代よりは、契約内容が整備され、現場の技術者にも知財という認識が行き渡ったから大丈夫だろうと思っていたら、今度はOEM委託元である日本企業が海外のOEM業者に、逆に知財で訴えられると言う事態が起こるようになりました。
 
 日本人が交わす契約と米国人が交わす契約には大差がないとして、開発案件などで知恵を出し合う場合は、「どこの、誰が、何を提案したか」はすべて議事録に残しておきます。
 
 記載漏れのある時や相手の都合が一方的に書かれている場合は、即、事実訂正を入れて返信します。日本人社員は、知財に関するリスク回避の姿勢が十分かどうか、今後に備えて検証しておきましょう。
 
 この連載では日本人と外国人を比較して、企業活動を行う上で、行動や考え方が全く異なる事例を多数紹介してきました。現場運用が大きく異なると、結果が同じにならないのです。
 
 近年では開発案件の海外移転も進んでいますが、契約を厳格に結んでいないと知恵抜きの被害を再び受けることになります。
 
「部品の図面を安く書かせてください。日本の料金の半分です」
 
「だめだ。真似をされた上にコストも上がって、日本には何の得も残らない!」
 
 そういって断るべきです。
 
■海外で評価される日本人技術者
 
 知恵抜きの被害に遭う人の大半は、技術者です。なぜ賢いはずの彼らが海外の罠にはまっていくのでしょうか。長年その原因を考えてきましたが、その根本には「日本人が持つ人に対する価値評価」と「人事的な処遇」が関係しています。
 
 海外でアルバイトをしていた中堅技術者が話すと、彼らからこんな発言があります。
 
「自分の能力が評価されるなら、海外でやりますよ」
 
 先端開発の知財を持ちながら海外企業に転職した別の開発技術者は、こう言いました。
 
「あの会社に長くいてもね〜。冷や飯を食うだけですから」
 
 日本の組織では同質な価値を持つことが大事であり、外国人従業員を職場に入れる場合でも、たくさんの懸念があります。同質性が崩れ、多様性が広がり、組織のまとまりがなくなることは求心力を低下させると考える日本企業が大半です。
 
 日本の技術者たちは、日本人組織の中では多様性の草分け的な存在といえます。組織の規則やルールに従うことは本心では不得手で、本当は自由気ままにいろいろな技を駆使して、知的な創造を楽しみたいという内面を秘めています。
 
 収益悪化によって、その自由が制限され、機械的に無機質に開発や設計をしていたのでは、心が躍りません。海外企業はその心理を突いたのです。
 
 日本企業では、技術開発者の処遇を狭く囲っているのが特徴で、十分な能力研鑽の機会や高い処遇を与えているとは言えません。そのため、技術者自身の士気も低下し、自分らしくいられないことが現場の不満として溜まっているのではないでしょうか。
 
 前回書きましたように、多様性はうまく使うことによって能力創出の幅を広げ、独自な価値を生む機会が増えるので、収益向上のチャンスを引き出すのです。
 
 これからは理論的な頭脳が経営の主流になり、世界市場で互角な思考を持って戦う日本人が多数必要です。経営改善のためには、今後、技術人材をどう位置づけていくとよいのか、そろそろ議論する時期に来ていると思います。 
 
■「知恵抜き」の次は「コンセプト抜き」
 
 最近では、知的産業の現場も荒れています。先進国で増えている知恵抜きに、「コンセプト抜き」というのがあります。
 
 前提として、知的財産とは何かの定義を再確認する必要が出てきています。自分の考えたもの、発見したもの、打ち出したものが、どういうプロセスを経て自分の所有になり、知的財産として収益をあげられるようになるのか。
 
 その定義を習得すると、どこまでが知的財産と呼べる範囲なのかを理解することができます。
 
 その定義はビジネスにも通用します。浅い提案・考察は、みんな似たり寄ったりです。
 
 人の行動の違いに関するものや収益性を高める活動といったものは、ある程度経験すれば誰でもシミュレーションをすることが可能なのです。
 しかし、そのやり方が通常の方法ではなく、普通ではあり得ない発見があるとすれば、それは独自のコンセプトになります。
 
 単純なコンセプトは簡単に抜かれます。儲かりそうなコンセプトは対話の中で抜かれる、そして自分の収益を高めることに利用されるということが、グローバル市場では横行しています。
 
「どうやって、仕事取ってくるの?」
 
「自分にしかできない方法がある」
 
「うちも専門調査したり市場リサーチしているから、変わらないと思うよ」
 
 いざいっしょに仕事をしてみると、自分の考察視点がまるで見えてきません。
 
「この提案では、世の中のあるがままを伝えているだけです。今の時代、持ってくるものには先を見据えた、独自性ある価値の打ち出しがないと商売にはなりません」
 
 日本ではマイクロソフトが出てくる以前は知財という定義が明確ではなく、コンセプトがその一部になると言う認識もあまりありませんでした。
 
 日本にはグローバルな知財に対する備えが法律としてなかったために、世界的に逃したビジネスチャンスもあります。
 
 昭和の時代に手塚治さんという漫画家がいました。一番お気に入りは「ジャングル大帝」でした。日本人が創造できないほど遠い、アフリカを舞台に自然に生きる動物たちのストーリーが描かれ、今でもライオンと言えば「レオ」いうキャラクターの名前が出てくるほど印象の強いアニメでした。
 
 ディズニーの「ライオン・キング」を見た時、「えっ〜?」と思いました。米国の業界関係者には「見た人が多数怒っている」旨を伝えました。そんな議論の後、日本発のコンセプトも海外販売できるように法律が整備されたのです。
 
 質の高いコンセプトは、収益性を大きく高めます。経済低成長の時代、タダ抜きが横行しているので注意しましょう。
 
組織体制と人で情報を守る
■人はファイアーウォールで守る
 
 知恵抜きを防止するためには、組織は人でファイアーウォールとなる壁を作ります。一人が騙されても、他のメンバーが阻止に入る。また専門知識のある人や知財開発を行う人は、人の砦で垣根を作り、外からの接触を避けるくらいの戦術が必要です。
 
 交渉相手に中堅の部下だけを行かせると、上位層は狡猾な「敵」と直接接触する機会が減るので情報流出は免れます。要は、知恵抜きを仕掛けてきそうな、敵方の上位層には気軽に会わないことです。会う時にはアジェンダをあらかじめ想定して、複数人で情報の守りができるようにしておきましょう。
 
 海外の宴席で接待を受けることも禁物です。ついつい親しくなり、普段は言えない情報も抜かれがちです。打ち合わせの最後の挨拶時、ふいに核心を突く質問をされるという場合も同様の戦法です。
 
 契約内容がいくら欧米並みにあったとしても、行動から正していかないと守りは機能しません。深酒は相手に隙を与えるだけでなく、当人の記憶をなくさせることがあるので慎みましょう。
 
 新興国でのアクションも同様です。製造の単価が安いから海外へ行くという単純な動機ではなく、将来に渡ってどんなメリットが打ち出せるかを深く考えます。
 
 一方、日本にはないさまざまなリスクもありますので、含み損も計算に入れましょう。また日本人とは思考が違うということを最初に知識として認識しましょう。グローバルな市場で戦いをしている人たちの思考は、ビジネス戦術と対話思考が巧みです。
 
■二度と墓穴を掘らないために
 
 日本経済が疲弊してきた原因、グローバル市場で競争力を落としてきた背景には、日本人自らの脇の甘さがあったことを再認識できたでしょうか。これからは、抜かれた知恵にはどんなもので穴埋めして、再度競争力を取り戻したらよいか、墓穴を掘らないためには具体的に何を磨いていったらよいのか、日本企業はこれからの市場戦略を考えていく必要があります。
 
 今回の第六回でこの連載は終了です。海外の現場の事例、日本人には見えていない視点や考察点などをご紹介する機会をいただき、深くお礼を申し上げます。多くの方からツイッターなどで感想もいただき、ありがとうございました。
 
 これから海外に出ていく次世代人材の方には、備えあれば憂いなし。当たって砕けてまた仕込み! この自分磨きを繰り返せば、いつか実を結ぶことをお伝えしたいと思います。勇気を持ってチャレンジしましょう。自己の成長プロセスを楽しめることが、海外で仕事をすることの醍醐味だと思います。是非、世界へ羽ばたいてください!