まぁ上げ潮派ならこういうわな
 

誤った議論の代表は「復興税」だ 慶応大学教授・竹中平蔵
2011.4.18 03:39
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110418/fnc11041803390000-n1.htm
 
 被災された方々やそれを支える人々の頑張りには、心打たれる。その一方、肝心の政府の対応が鈍い。関東大震災時、翌日に復興院の設立が発表されたのに、1カ月たっても第一次補正予算の姿さえ見えないのはどうしたことか。

「複合連鎖危機」と認識せよ

 復興の議論を進めるに当たり、まず危機の本質について認識を共有することが重要だ。今回は地震津波にとどまらず、原発事故、エネルギー不足、サプライチェーン崩壊、農産物安全性の危機など複合的な問題が連鎖的に起きている。「複合連鎖危機」であり、対応を怠ると、日本という国への信認全般が揺らぎかねない。「バリュー・オブ・ジャパン」(日本の価値)の危機、といってもよい。逆に、これを機に、日本の課題を包括的に解決して、21世紀型の新しい日本を作ることもできる。

 それには、復旧、復興、その後の改革を一体化し、迅速かつ切れ間なく行う必要がある。東北の農業を単に復元するのではなく、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対応型の強い農業にする。街の再建では完全エコタウン・防災都市に仕上げる。市町村合併を進めて強固な基礎自治体にし、東北の地方分権を本格化させる…。そんな構想力と、それを実現するため、戦後の安定本部(「安本(あんぽん)」)のように縦割り行政を超えた強力な「復興安定本部」が必要だ。

 政府の対応はそれにほど遠い。政府が“無政府状態”になっており、案件がたらい回しされるとの話すら聞く。つい先ごろまで、モノはあるのに行き渡らない混乱が起きていた。福島第1原発の問題などで幹部もばらばらな意見を述べ、国民に容易に分からない。
 
 一つ明らかなのは、政府・東電による「リスク・コミュニケーション」の失敗だ。極めつきは、汚染水の放出に際し、隣国韓国に事前通知されず、農林水産相さえ知らされていなかった。こんな時にこそ、かの「国家戦略会議」の出番だと思うのだが、震災から1カ月一度も開かれた形跡がない。
 
TPP、エコタウン、分権…
 
 阪神・淡路大震災時、対応策の枠組みが作られた。これまでほとんど全てがこの「ひな型」に則(のっと)っており、大きな政策判断と呼べるものはまずない。3月31日に2011年度予算が決まったが、本来なら組み替えして10兆円規模の復興予算枠を計上すべきだった。

 4月中に第一次補正予算を編成する方針だが、盛り込まれるのもほとんど「ひな型」の内容だ。菅直人首相はTPPに参加するか否かの結論を、当初予定の6月から先送りすると述べたが、そうではなく復興予算にTPP対応型農業の予算を計上すべきなのだ。ようやく「復興構想会議」が設置されたが、これも阪神の時のひな型に沿うもの。現状では大胆な構想力を反映した復興策は見えない。

 以上を反省しつつ、「TPP対応型の強い農業」「完全エコタウン」「自治・分権型東北」「21世紀型防災都市」をつくるビジョンを明確にし、さらに円暴落などの危機プランを準備すべきだ。その際、重要なのは、思い切った政策を行うに当たっても物事の原理原則を踏み外してならない点だ。

 非常事態下で「何でもあり」の気分が蔓延(まんえん)しているが、非日常的政策と原則無視とは違う。ここを誤ると、日本の価値を毀損(きそん)するリスクに直面する。関東大震災時、震災手形を日銀が引き受け短期的には金融状況を改善したものの、金融恐慌の引き金にもなった。
 
復興の主体あくまで民間経済

 政治では大連立模索の動きがある。与党は単独では背負いきれないと感じ、野党は総選挙が遠のいた以上、自らも政策に関与したいと考える。だが、政権与党はこんな中でこそ責任を全うすべきで、野党は健全野党として必要な協力をすべきだ。大変だから大連立、では「大義」を欠く。志の低い大連立を行えば、政府内の意思決定が益々(ますます)、混乱する懸念もある。

 経済原則に反する政策論議も罷り通っている。よかれと思って行うことが正しいとは限らない。典型は自粛ムードだ。結果的に経済を委縮(いしゅく)させ、被災地を助ける力を削(そ)ぐことになる。誤った議論の代表は「復興税」だ。恒久的ではない一時的な支出増を増税で賄うのは不合理だ。また、経済が負の衝撃を受けているときの増税などあり得ない政策だが、同情心を煽(あお)って堂々と主張されている。そもそも郵政をきちんと民営化し株式売却をしていれば5〜10兆円が国庫に入り、復興目的の増税といった愚策を論じる必要はなかった。

 忘れてならない原則は、復興主体は民間経済だということだ。内閣府の試算でも公的資本より民間資本の方が遥(はる)かに多く毀損している。こうした中、法人税引き下げが見送られる公算が大きく、経団連も同意した。だが、民間のエクイティ(持ち分資本)を呼び込むには法人税の一層の引き下げこそが重要なのだ。

 こんな時こそ政治指導力で王道の政策を進めねばならない。政府は閣僚を3人増やす案を検討中だが、足りないのは、大臣や補佐官ではない。指導力なのである。(たけなか へいぞう)