YOUTUBEと民主制

  

ロシア南部の警察中堅幹部が11月上旬、上層部の腐敗をウラジーミル・プーチン首相(57)に訴える告発ビデオをインターネット上で公開し、動画サイトYouTubeでの視聴が100万回を超える大きな反響を呼んだ。この警察官はモスクワに上京して記者会見も開き、一部メディアでは一躍“時の人”に。この後、元職を含む治安当局者ら7人が同様の告発ビデオをネット上で公開し、ある種の社会現象と化している。
 
「無実の人を拘束」
 
発端となったのは、南部クラスノダール地方ノボロシスクで勤務する薬物捜査担当の刑事、アレクセイ・ディモフスキーさん(32)。制服姿で出演した自作ビデオで、実績をあげたり、わいろを要求したりするために「架空の犯罪をでっち上げ、無実の人を拘束させられるのはもうたくさんだ」などと上司の職権乱用や汚職の実態を暴露している。
 
さらに、「土日も無給で働かされる。2人の妻に逃げられた」と待遇の悪さを訴え、「あなたと差しで話がしたい。全土の警察に独立した調査を行うべきだ」と
プーチン首相との面会を求めた。
 
地元の警察当局はこのビデオの内容を「中傷だ」としてディモフスキーさんを解雇。しかし、この後も北西部コミ共和国の元検察幹部と元警官がドミトリー・メドベージェフ大統領(44)に「終身刑の判決を受けた2人の放火犯は無実だった」と“直訴”するなど、同調する動きが相次いでいる。いずれもネット上での注目度が高く、ロシアに蔓延(まんえん)する汚職の根深さとともに、この問題への関心の高さを浮き彫りにしている。
 
わいろなしに生活できず
 
実際、国民の警察不信はとうに極まっている。「交通違反」でわいろをむしり取ったり、事件の被害届や証言を握りつぶすのは日常茶飯事だ。庶民の間では、警察は「わいろを求めてたかる連中」「ごろつきと変わらない」というのが相場と決まっている。
 
警官自身が引き起こす重大事件も珍しくない。24日には、モスクワで酔って少年(19)を警棒で撲殺したとして警官3人が拘束された。10月には2件の無理心中で警官2人を含む5人が死亡。
4月にはモスクワの幹部警察官がスーパーで拳銃を乱射し、9人を死傷させている。専門家によれば、「警官による犯罪は立件されるものだけで年間数千件」とみられている。
 
腐敗の最大の理由は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関の連邦保安局(FSB)など特務機関関係者を除いて、一般警官の給料が低く抑えられている点だ。ディモフスキーさんの場合で月1万4000ルーブル(約4万3000円)といい、わいろなしには生活が立ちゆかない額だ。
 
「歴史的な国民病」
 
大統領付属の市民社会発展・人権問題委員会メンバー、マーラ・ポリャコワさんは「相応の給与がなくては人材を選ぶ余地がない。現実に犯罪性癖のあるような不適格者が採用されてきた」と指摘。
「冤罪(えんざい)をなくすために、非現実的な検挙率目標といった職務基準を改めることも不可欠だ」と話す。
 
一連の告発ビデオの信憑(しんぴよう)性は十分に究明される必要があるが、ポリャコワさんは「警察改革の必要性は長らく指摘されながら進まなかった。ディモフスキー氏の行動は重要な一歩であり、ネットは社会の透明性を高める上で有益だ」としている。
 
もっとも、当局は「臭い物にはふたを」とばかりに告発者への圧力を強めており、汚職への抗議が今後、どれだけ現実世界での社会運動に発展するかは不透明だ。ネットによる告発や“直訴”が相次ぐのは、民主主義を支える司法や議会、報道があまりに脆弱(ぜいじやく)だからという疑いない現実もある。
大統領自身が「歴史的な国民病」と認める汚職を根絶するには、何本かの告発ビデオだけでは甚(はなは)だ不十分だ。
 
ソース(産経新聞http://sankei.jp.msn.com/world/europe/091127/erp0911271115007-n1.htm

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